平成30年9月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

 

 人口減少とともに空き家はますますふえるばかりであります。

 一方、家庭菜園をやりながら田舎暮らしを満喫したいといったニーズも年々高まっております。したがいまして、移住や2地域居住を促進させるには、それに見合う物件の流通を活発にすることが重要だと思います。
 ただし、課題の一つとして、農地及び農地法がかかわってまいります。そことの折り合いをいかにつけていくかが大きなポイントになろうかと思いますので、私なりに具体策を探りながら質問をしてまいりたいと思います。
 まず初めに、中古住宅の安全性についての質問です。
 地震大国の我が国においては、何よりも消費者が安心して購入できる良質な中古住宅の流通を促進させることは喫緊の課題であります。それには、まず建物の安全性を正しく把握しなければなりません。中古住宅の所有者がインスペクション、いわゆる住宅診断を行ったり、あるいは既存住宅に対して売買瑕疵保険を設定する場合、それらの費用の一部を補助するあんしん空き家流通促進事業補助金というものがあります。まずはその実施状況について建設部長にお伺いをいたします。
 さて、この中古住宅ですが、昭和56年以前の旧耐震基準の建物は見るからに危険なものが多いのが事実であります。そういった物件を買ったり借りたりする場合、例えば耐震補強などが施してあれば、ある程度安心ができます。ほかにも、耐震診断の結果やリフォーム、修理、修繕などの履歴がきちんと情報公開されていれば購入後のトラブルを未然に防ぐことにもなるでしょう。また、そういった消費者保護の意識が高まれば、危険な住宅など流通にそぐわない建物は淘汰され、良質な中古住宅の市場形成を図ることにつながると思います。
 アメリカでは、建物の資産価値が下がりにくいと言われておりますが、その理由の一つは、契約前に約8割の購入者が住宅診断業者を利用して建物をくまなく調べさせ、良質の物件を求める点にあります。日本も見習うべき点は多々あろうかと思いますが、それには、まず関係者の連携を深めていかなければなりません。
 地震大国である日本において良質な物件の流通を促進し、安心、安全な中古住宅市場を活性化するためには、行政のみならず、関係業界との連携による取り組みが特に重要だと考えます。県と市町村との連携もあわせて建設部長に所見をお伺いします。
 また、県においても、楽園信州空き家バンクにより農地付き住宅などの住まいの情報提供を行っておりますが、その成果と課題、さらには、農地付き空き家における空き家バンクへの物件登録の状況はどうなのか、また、市町村の空き家バンクの開設状況並びに運営における課題は何か、あわせて企画振興部長にお伺いをいたしたいと思います。
 次に、農地について触れたいと思います。
 冒頭でも述べましたが、今や田舎に住みたいという田園回帰の流れが高まってきております。と同時に、家庭菜園を行うために小さな農地を手に入れたいと考える移住者もふえてまいりました。ところが、御存じのように、耕作を目的として売買や賃貸借契約を結んだり、あるいは無償で借りる場合であっても、農地法第3条に基づく許可は必要になってまいります。ただし、そこには下限面積という要件がありまして、都府県の場合は原則として50アール、つまり約1,500坪に満たない場合は3条の許可が得られないことになっております。しかし、実際は家庭菜園をするのに1,500坪も耕す人は滅多におりません。5反歩というのはもはや本百姓の領域です。
 そこで、現在は、平成21年の農地法改正により、地域の実情に応じて市町村の農業委員会の判断で下限面積を定めることが可能となっております。その条件というのが、一つは、農地集積などが難しく、平均規模が小さい地域、二つ目が、農業の担い手が不足している地域であります。こういった農地については、農業委員会の判断によって下限面積を引き下げることが可能となっております。ただし、この判断基準や考え方というのは温度差があることも事実です。申請されてくる農地の現地調査の際に、案件によっては農地法の理念を厳格に守るべきだといった意見が出る一方、この農地は家庭菜園にしか向かないから下限面積を下げるべきだといった意見が出ることもあります。
 つまり、農業委員会の判断に委ねるとは言っても、簡単にはいきません。私も農業委員を経験したことがありますけれども、農地に対する考え方というのは人それぞれであります。県とすれば、条件のよい農地、集積すべき農地等はしっかりと守る。しかし、家庭菜園に適した農地も点在しているのでそこを考慮するようにと農業委員会等にアプローチをしているわけですが、いま一つ浸透していないのが現状ではないでしょうか。
 そんな中、この要件緩和に積極的に乗り出し、成果を上げている地域もございます。例えば飯山市ですが、ここでは、関係各位の長年にわたる御努力により、下限面積を2アール、約60坪以上に引き下げることができました。これによって物件の流通がとても活発になったようでありますが、県内の市町村の下限面積の緩和状況はどうなのかお伺いいたします。
 また、農業発展と移住推進の両立を図るためにも下限面積の要件緩和について県としての方向性を示していくべきだと思いますが、あわせて農政部長に所見をお伺いしたいと思います。
 次に、農業委員会への申請手続についても触れておきたいと思います。
 購入希望者が農地の権利移動の許可あるいは所有権移転手続を行う際に問題になるのは2地域居住であります。春、夏、秋は信州で家庭菜園を楽しみ、冬は暖かい南国や都会で生活を楽しむという何ともうらやましい2地域居住を実現されている皆さんも年々多くなっております。ただし、その際に住民票を移さない方々もおります。その際に行政サイドから追及されるのは、生活の拠点はどこにあるのか、あるいは150日以上の就農は可能なのかなどであります。実際の取引の中においては、そういったことがネックとなり、屋敷周りの農地が許可されないことがあります。許可がおりないとなりますと、代金は払ったけれども仮登記のままといった不安定な状況に置かれるケースも出てくるわけです。こういったことが起きないようにしていくのも2地域居住を推進していく中においては重要ではないかというふうに思います。
 農地を取得する際に、許可要件を厳格に審査してやるぞというしゃくし定規的な対応ではなく、どのような要件を備えたら許可が出ますよといった協力的な姿勢でアドバイスをしていくことも大切だと思います。そして、そのような考え方が各市町村の担当職員や農業委員会の皆さんの対応にも反映していくと思いますが、農政部長の御見解をお伺いいたします。
 最後に、知事にお伺いいたします。
 県は、新たな総合5カ年計画の中で、移住交流の新展開をうたっております。その中では、半農半Xなど複数の役割を担う一人多役といった多様な生き方や暮らし方の促進を施策目標として掲げておられます。それを具現化するためには、農地付き空き家の流通を促進することは極めて重要だと思いますが、阿部知事の御所見をお伺いいたします。
      

◎建設部長(長谷川朋弘)

 

 あんしん空き家流通促進事業補助金についてのお尋ねです。
 この事業は、インスペクションと呼ばれる住宅の劣化やふぐあいの診断に要する経費と既存住宅売買瑕疵保険の加入に要する経費に対して県が一部補助するもので、平成28年度から実施しています。初年度は56件、昨年度は69件と予算額に達する申請があり、今年度も、現在までのところ昨年度と同程度のペースで申請をいただいているところでございます。今後とも本制度の周知に取り組んでまいりたいと考えております。
 次に、関係業界などとの連携による中古住宅の流通促進についてのお尋ねです。
 議員御指摘のとおり、良質な中古住宅の流通促進には、消費者に適切な情報が行き渡るなど、行政と関係業界との連携による安心、安全な中古住宅市場の活性化に向けた取り組みが重要であります。国では、インスペクションに加えて、耐震診断により安全性が確かめられた中古住宅を扱う団体に安心R住宅の商標の使用を認める制度を関係業界で連携してスタートさせており、県も国とともに本制度の普及に努めているところであります。
 また、本県における先進的な取り組みとして、上田市では、研修を受けた宅地建物取引業者が輪番制で空き家バンクの登録物件の仲介に当たり、購入希望者と所有者とのマッチングや重要事項説明等を行うなど、業界と市が連携してトラブル防止と流通市場の活性化を推進している例もあります。
 このように、中古住宅の流通など空き家対策の推進は、県、市町村及び関係業界の連携が不可欠であり、県では、引き続き市町村と業界団体が参加する空き家対策地域連絡会を通じ、制度の周知、先進的事例の情報提供や技術的助言に積極的に取り組んでまいります。
      

◎企画振興部長(小岩正貴)

 

 順次お答え申し上げます。
 まず、楽園信州空き家バンクの成果と課題についてでございます。
 この空き家バンクへの現在の登録利用者数でございますが、平成27年8月の空き家バンク開設時には427人でございましたが、本年9月末現在では1万1,019人にまで拡大をしてございます。また、登録物件数でございますが、本年9月末現在で、市町村登録分として339件、宅地建物取引業者登録分として348件、合わせて687件登録をされております。また、平成29年度中に賃貸または売買の成約に至った件数は、市町村登録分の物件で246件に上っておりまして、一定の成果が出ているものと認識をしてございます。
 なお、宅地建物取引業者登録分につきましては、空き家バンク以外でも並行して紹介されている物件でございますので、空き家バンクによる成約数として把握することが難しいということは御承知をいただきたいと思います。
 一方、課題でございますが、物件への愛着や他人に貸すことに抵抗があるといった所有者の意識。老朽化し、利用するには改修が必要な物件が多いこと。また、相続の手続が行われず所有者が不明な物件があることなどによりまして物件の登録がまだまだ十分には進まないということだと思っております。
 あわせて、こうして登録できる物件が少ないことや、登録更新の事務負担の面から市町村の参加が45の団体にとどまっていることも課題と認識をしてございます。
 次に、農地付き空き家の登録状況についてでございますが、楽園信州空き家バンクでは、家庭菜園・畑付きというカテゴリーと就農者向けの二つのカテゴリーを設けまして、農地付き物件の登録もされてございます。本年9月末現在、家庭菜園・畑付きは101件、就農者向けは23件、合わせて124件が登録されているところでございます。
 続いて、市町村の空き家バンクの開設状況と課題についてでございます。
 本年4月1日現在、66の市町村が独自の空き家バンクを整備をしております。市町村の空き家バンクの課題につきましても、先ほど御説明いたしました楽園信州空き家バンクの課題とほぼ同様でございますが、これに加えまして、県の楽園信州空き家バンクと別々のシステムにより運営しているため、両方のシステムに物件登録の入力が必要となるなど事務処理上の負担も課題と認識をしてございます。
 市町村や長野県宅地建物取引協議会とも相談をしまして、移住希望者の利便性を念頭に、よりよいシステムとなるよう今後検討してまいりたいと考えております。
 以上でございます。
      

◎農政部長(山本智章)

 

 農地取得に係る下限面積の要件緩和についてのお尋ねでございますが、県では、これまで、市町村農業委員会に対しまして、原則50アールとされている下限面積について緩和することが可能である旨の説明を行うとともに、平成27年11月には文書により下限面積の引き下げを検討していただくようお願いをしております。こうした取り組みによりまして、平成30年9月末現在、県内市町村の約9割となる70市町村におきまして下限面積が緩和されており、全国平均の約6割と大きく上回る状況となっております。このうち、20市町村では、空き家等とセットで取得する場合に、特例として1アール、または0.5アールまで引き下げている状況にございます。優良農地を確保しつつ、移住希望者が円滑な就農や農ある暮らしができるよう、地域の実情に応じて下限面積の緩和を行うことは新たな担い手の確保とともに人口の社会増の観点からも重要と考えておりますので、今後も、機会を捉え、農業委員会へ働きかけてまいります。
 次に、農地の取得につきましては、農地法第3条第2項各号に規定する許可基準に基づき市町村農業委員会が許可を行っております。農業委員会におきまして、優良農地の確保という観点から、許可基準に基づき適正に審査をすることは農地法の要請するところであります。一方で、農ある暮らしや、それを踏まえた移住を志向する方の希望に応えることも重要な視点であると考えております。
 議員からお話のありました許可基準の一つであります農作業への従事期間につきましては、原則150日以上とされておりますが、農地を取得する方の営農計画全体を丁寧に審査する中で、150日未満であっても許可される場合がございます。県としましては、農業委員会が申請される方の計画を十分考慮して適切に判断をすることができるよう研修会等で助言をしてまいります。
 以上でございます。
      

◎知事(阿部守一)

 

 農地付き空き家の流通促進についての所見という御質問でございます。
 基本的に依田議員が持たれている問題意識は私も共有させていただいておりますし、ぜひ積極的に進めていく方向で取り組むべき課題だというふうに考えております。
 長野県も、移住者の受け入れであったり、あるいは新しいライフスタイルを実現していく県づくりということに取り組んでいるわけでありますけれども、これは大都市と同じようなことをしていてもいけないわけでありまして、絶対大都市ではまねができないことをしっかりと取り組むということが重要だと思います。
 そういう意味で、農地付きの住宅であったり、あるいは私は山林付き住宅とも言っていますけれども、農地や山林付きで暮らすなどということは東京都内では全く不可能な状況であります。そうしたものは、やはりしっかり長野県の強みとして売り出していくということは大変重要だと思っています。
 そうした観点で、これまでも各部長から御答弁させていただきましたように、私どもも、この農地付きや山林付き住宅については意識をして取り組んできておりますし、また、市町村の農業委員会初め関係方面に働きかけをさせてきていただいております。
 ただ、まだまだ取り組みが十分ではないところもあるというふうに私も思いますので、しっかりこの農地、山林付き住宅というものが長野県の特色として確立できるように進めていきたいというふうに思っています。
 とりわけ、法令上の規制、課題になるようなものがあれば改善を求めていかなければいけない。あるいは県としても改善するべき点があるかもしれません。また、あわせまして、市町村を初め関係方面にも県の考え方について十分御理解をいただいて、その上で一緒になって取り組んでいくということが重要だというふうに考えております。
 長野県が新しいライフスタイルをしっかりと実現できる県となるように、御指摘のありました農地付き住宅、農地付き空き家の流通促進も含めて取り組んでいきたいというふうに考えております。
 以上です。
      

◆依田明善

 

 それぞれ御答弁いただきました。
 都会から信州に移住し、家庭菜園からスタートし、次第に農業の魅力にはまり、今や全国紙に紹介されるほど画期的な農業人として活躍されている人々もおられます。農地法の理念は、そういった人々をふやしていくという点においても生かされるべきではないのかなというふうに私は思います。
 県としても、さまざまな連携を強化しながら農地付き空き家の流通促進を図り、空き家と荒廃農地の減少に努めていただくことを切にお願い申し上げまして、一切の質問といたします。