平成30年6月定例県議会 発言内容(石和大議員)


◆石和大

   

 平成17年4月に発達障害者支援法が施行されました。平成28年6月にはその一部が改正され、共生社会の実現に資することが法の目的に加わりました。切れ目のない支援の重要性が明記され、発達障害のある方にとって社会生活上の妨げになるようなもの、つまり社会的障壁の除去を目指すことも盛り込まれました。

 この法では、発達障害を、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害などと定義しています。最近では、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害をまとめて自閉症スペクトラム障害と呼ぶことも多くなっているということです。
 発達障害とは、生まれつき脳の働き方に偏りがあるために、発達の仕方にでこぼこが生じて、そのことで生活上の大変さを抱えていると考えられています。例えば、コミュニケーションのとり方が独特であったり、特定のものに対するこだわりが強くあらわれたり、一つのことへの注意が続かずにうっかりしやすかったり、得意なことと苦手なことのギャップが大きかったりというようなさまざまな特性が見られることがあるということです。
 こうした特性は、人によって強弱の違いはあり、多かれ少なかれ私たちの誰もが持っているものとも考えられ、個性の一つとも言えるのかもしれません。しかし、この特性が強く出てしまう方々にとっては、その特性に対する周りの理解、配慮が得られないときにさまざまな困難が生じてしまうことになります。社会の多くの人が発達障害について理解し、誰にとっても暮らしやすい社会を目指すことが求められます。
 発達に偏りがある子供の例を一つ挙げますと、小中学校のころから不登校気味だったA君は、高校へ入学後、クラスになじめず、1年生の夏休み明けから完全に不登校となり、昼夜逆転でスマホのゲームをやり続けるようになりました。さらに、ゲームで負けると、おまえのせいだと母親へ暴力を振るうようになり、困り果てた母親が学校を通じて保健所へ相談したことをきっかけにA君は医療機関を受診し、自閉症スペクトラムと、これまで的確な対応、支援を受けられなかったことによる鬱症状などの二次障害も出現していると診断されました。
 例えば、このようなA君がいたとして、A君がこれまで成長してきた幼少期から青年期までの間に診断や療育等につなげられる機会は幾つかあったと考えられます。さらに、適時的確な支援を受けて二次障害を防ぐためには、保護者や周囲の人間の理解が欠かせないものと思われます。このような子供たちに対し、なるべく早く的確な判断により、診断を初めとする支援が必要なことは言をまちません。しかし、発達障害に関する医療、支援のニーズは、推計3万人、県内全児童の約1割とも言われています。このような数の対象者に対する対応はどのようになされているのかお尋ねをいたします。
 まずは、発達障害の疑いのあるお子さんに対し、小学校入学前の早期発見や早期支援はどのように行われているのか。あわせて、保護者にとって受け入れやすいと考えられる医学的な見地からの診断や助言等を受けることができる体制は県内で構築されているのか。健康福祉部長にお聞きをいたします。
      

◎健康福祉部長(山本英紀)

 

 発達障害の診断について2点御質問をいただきました。
 1点目は、小学校入学前の発達障害の早期発見、早期支援についてであります。
 発達障害の疑いのある子供については、市町村の実施する乳幼児健康診査や保育所、幼稚園などでの集団行動の中で気づかれることが多く、県といたしましては、発達障害の早期発見が進むよう、市町村の保健師や保育士向けの研修を実施しております。
 子供やその保護者への支援につきましては、市町村の保健師が中心となって継続的に相談対応を行うほか、必要に応じ医療機関や各圏域に配置されている療育コーディネーター、発達障害サポートマネジャーにつなぐなど、適切な療育が図られるよう各圏域の関係機関が連携して支援に取り組んでおります。
 医学的な見地から診断、助言が受けられる体制については、県内の医療体制においては、発達障害の診療や助言のできる医師が不足し、初診待ちが長期化するなどの課題が生じておりました。このため、県では、今年度、信州大学医学部に委託して、子どものこころの発達医学教室を設置し、長野県発達障害専門医や診療医の育成を行うことといたしました。本事業により育成した医師が将来的に県内の医療機関に配置され、全県的な医療のネットワークが構築されることにより、発達障害の診療や医学的な助言が速やかに受けられる体制を整備してまいりたいと考えております。
 以上であります。
      

◆石和大

 

 この発達障害に関しては県議会でもたびたび取り上げられています。平成24年2月定例会に下沢順一郎議員により発達障害支援に関する質問がなされています。このあたりから議論が活発になってきていますが、その中で、発達障害支援のあり方検討会の報告書に対する施策について触れられています。
 それに対し、健康福祉部長は、答弁の中で、検討会報告の五つの柱に対する施策展開として、1、全般的支援体制の中心たる専門家の育成。2、情報共有手段の整備として、支援関係者が当事者の情報を共有する個別支援ノートの普及。3、専門的支援技術の強化として、当事者の状態を的確に評価し、早期発見や適切な支援につなげる専門的手法の普及。4、普及啓発として、社会の理解を促進する人材の全市町村における養成。5、診療体制の整備として、地域の医療機関や診療検討会などに対する発達障害診療の専門家の指導助言とありますが、約6年経過した現在、これらはどのように施策展開され、どんな成果があったのか。また、現在の課題は何かお聞きします。
 関連して、具体的にはサポートマネジャーの育成に対する質問があり、答弁では、最終的には10圏域ごとにサポートマネジャーを配置したいとあり、段階的に増員がなされていますが、現在の配置状況とその機能、これまでの成果についてお聞きをいたします。
 関連して、発達障害を持つ子の保護者への支援についてですが、親も診断を受けた当初は困惑し、孤立してしまったり、また、家族の理解にも時間を要することも多いとされています。発達障害を持つ子の子育て経験のある親であって、その経験を生かし、相談や助言を行うペアレントメンターの養成と活用の状況はどうなっているのか。以上、県民文化部長にお聞きをいたします。
 次に、先ほどの事例でもわかるとおり、発達障害の発見時期は、幼稚園や保育園での集団行動の中であることが少なくありません。また、小学校入学後、中学校もあるでしょう。だとすれば、当然保育士や幼稚園教諭、学校の先生には、発達障害に対する支援方法についてある程度の知識を身につけ、多様な子供たち一人一人にとってわかりやすい授業を行うことが求められると考えます。県教育委員会としては、現状をどのように受けとめ、今後どう対応していくのか伺います。
 さらに、発達障害の子供たちには切れ目のない教育支援が必要と思いますが、特に、義務教育段階を卒業し、高等学校に進学した子供たちへの支援はどのように行われているのでしょうか。また、卒業後の就労等に向けた支援の状況についてはいかがでしょうか。
 以上、教育長にお聞きをいたします。
      

◎県民文化部長(角田道夫)

 

 3点の御質問をいただきました。
 まず、あり方検討会の施策の成果、課題についてでございます。
 長野県における発達障害者支援のあり方検討会の報告書にございます五つの柱のうち、一つ目の専門家の育成につきましては、発達障害者支援の中核となる人材を発達障害サポートマネジャーとして認定し、平成25年度から計画的に配置を進めまして、平成27年4月には県内10圏域全てに配置を完了したところでございます。
 二つ目の柱の個別支援ノートの普及につきましては、本人の成長記録や支援内容を関係者が共有するためのツールとして、平成27年度に「わたしの成長・発達手帳」を作成いたしまして普及に努めてまいりました。平成29年度までに37の市町村で導入され、本人が提示することで適切な支援が切れ目なく受けられるような体制が整備されつつございます。
 三つ目の柱の専門的手法の普及につきましては、市町村の1歳半や3歳児の乳幼児健診におきまして、発達の状態を把握するためのツール、いわゆるアセスメントツールの導入を市町村へ推奨してまいりました。平成29年度までに60の市町村が導入しており、早期発見の体制整備が進んでいるというふうに考えております。
 四つ目の柱の普及啓発につきましては、発達障害に関する正しい理解者を発達障害サポーターと呼びまして、そのための養成講座を開催してまいりました。平成29年度までに1万人以上の県民が本研修を受講し、発達障害サポーターとして活動いただいております。
 五つ目の柱の診療体制につきましては、先ほど健康福祉部長から御答弁申し上げたとおりでございます。
 これらの取り組みの全体の成果として、早期発見のシステムや関係機関の連携体制の構築など、県内における発達障害者に対する支援体制の整備は前進していると言えるのではないかというふうに考えておりますけれども、その一方で、今後に向けまして取り組むべき四つの重点課題も明らかになってまいりました。
 一つには、学校現場での教員等の知識、対応力の向上、二つには、発達障害者の自立、就業に対するさらなる支援の充実、三つ目としましては、発達障害者やその家族に対する周囲の理解促進、四つ目として、発達障害を診察できる医師の養成でございます。
 この中でも、特に自立、就業は、生涯にわたって一貫した支援を行う上で不可欠なものでございます。この課題に対応するため、各年代を通して一貫した支援のあり方を検討する場であります長野県発達障がい者支援対策協議会の構成を見直しまして、今年度新たに自立・就業部会を立ち上げたところでございます。今後は、関係機関との連携を強化し、切れ目のない支援、施策のさらなる充実を図ってまいりたいというふうに考えております。
 二つ目の御質問は、サポートマネジャーの成果等についてでございます。
 10圏域に1名ずつ設置いたしました発達障害サポートマネジャーは、発達障害者支援に直接かかわっている教育、福祉、医療等の分野の支援者に対し、幅広い専門的知識や情報をもとに総合的な助言や援助を行うとともに、必要な人に必要な支援が届けられるよう、各支援者間の橋渡しを行っております。
 具体的には、発達障害サポートマネジャーが教育と医療、福祉の関係者を集めて合同での事例検討会を行ったり、発達障害サポートマネジャーが高校に出向いて教員と一緒にソーシャルスキルの学習を実施したりしております。こうした取り組みによって、各分野の関係者が行っている支援内容をお互い理解できるようになること、そして、それぞれの支援情報を共有することができるようになり、それまで限定的だった支援が、関係機関が連携するチームとしての支援に変わってきているというふうに考えております。また、それぞれの関係者の役割が明確になり、それを理解した上で支援情報をつないでいくということによって、乳幼児から成人になるまでの一貫した支援が行われるような体制が整備されつつあるというふうに考えてございます。
 三つ目の御質問ですが、ペアレントメンターの活用状況についてでございます。
 ペアレントメンターの活動といたしましては、家族会、相談会等の保護者が集まる場に出向き、グループ相談の形式で発達障害のある子を育てている保護者のお話を聞いたり自分の体験を話したりしていますが、相手の話を聞き、受けとめる傾聴により、相談者の心理的負担を和らげたり、相談内容によっては新たな支援機関につなげる場面もあり、発達障害者支援施策の一つとして重要な役割を担っております。
 ペアレントメンターには、所定の研修を修了した方が平成29年度末現在で100名登録されており、これまで延べ478名の相談に応じていただいております。今後も、支援が必要な立場である保護者のメンタル面を支えるという重要な役割を担っているペアレントメンターの事業をさらに充実させてまいりたいというふうに考えております。
      

◎教育長(原山隆一)

 

 発達障害のある児童生徒への対応の現状と今後についてでございます。
 医師や専門家により発達障害と判断された児童生徒は、小中学校で4.2%という割合になっております。そういう意味では、ほとんどの学級に在籍していると言ってもいい状況でございます。したがって、全ての教員が発達障害について理解し、多様な特性を持つ子供たちがともに学ぶ中で、質の高い授業を実現する必要があるというふうに考えております。
 発達障害そのものについての理解は、全ての教員が研修で学んだり、あるいは幼稚園、保育所、小中学校等の要請によりまして開催しております出前研修等により進んできているというふうには思っております。
 では、授業改善についてはどうかといいますと、一部では発達障害の児童生徒が授業に集中して取り組むことができるようICTを使って学習の流れを視覚的に提示したり、子供の意欲をもとに授業づくりができるように疑問や興味が持てるような図や絵、具体物を使って授業に入ったりするなどの工夫をしている取り組みもございます。
 こうした取り組みを、点にとどめず、実践の共有化を図り、県内の全ての教員が質の高い授業を実現していくことが必要であるというふうに思っております。そこで、現場の英知を集め、それを各学校に提供し、互いに学び合う中で絶えずバージョンアップすると、そういうダイナミックな展開を図ってまいりたいというふうに思っております。
 次に、高校に進学した子供たちへの支援でありますが、高校においても、全ての教員が発達障害に対する理解を深めるために、小中学校同様に悉皆研修を実施しておりますほか、学校としての支援体制を確立するために特別支援教育コーディネーターや生徒指導、進路指導担当などを対象とした研修も実施しております。
 さらに、今年度からは、一人一人の教育的ニーズに応じた指導、支援を目的とした通級による指導を高校でも開始いたしましたほか、高校の専門性を高めるために、特別支援学校に高校巡回教員を配置し、助言を行っているところでございます。さまざまな取り組みを充実させまして、発達障害のある生徒に対する中学校からの切れ目のない支援に引き続き努めてまいりたいと思います。
 最後に、卒業後の就労等に向けた高校における支援の状況でありますが、発達障害等の生徒が社会に出た際に必要となるコミュニケーション能力を身につけるためのソーシャルスキルトレーニングや、実際に就業体験を行うインターンシップなどの支援のほか、支援を必要とする生徒を対象に、基礎的、基本的な学力定着のための学習支援員も配置しているところでございます。さらに、今年度は発達障害のある方の就職に必要な知識やスキルの向上をサポートしております民間事業所、LITALICOというところに教員を派遣し、発達障害等の生徒に対する就労支援のあり方などについての研修も行っているところでございます。今後、この分野における新たな知見や方法を積極的に取り入れながら生徒への支援を充実させてまいりたいというふうに思っております。
      

◆石和大

 

 さて、知事は早くから発達障害支援に着目し、それに取り組む先駆的な学園を訪問し、そこで行われているきめ細やかな教育、すさまじいとも表現された先生方の熱意、子供や若者の生き生きとした姿を目の当たりにし、長野県にも専門性の高い学園をということで長野翔和学園を誘致されました。その狙いとしては、特に支援が不十分な高校、大学相当年齢の子供、若者たちの学びの場の確保、特性に応じた個別の発達教育支援を行うために、発達教育支援に先進的に取り組んでいる教育機関を誘致したということです。さらに、こうした先進的な教育ノウハウを県内の公立、私立学校における発達教育支援の向上に生かすとされていました。
 改めて知事にお聞きをいたします。この学園誘致を通じて、また、この学園が運営されることによりどんな思いを実現しようとしたのか。成果をどのように捉えているのか。今後の課題、また今後の展開についてどのような所見をお持ちか、お聞きをいたします。
      

◎知事(阿部守一)

 

 長野翔和学園の成果と課題という御質問でございます。
 発達に特性のある子供たちはそれぞれにすばらしい能力を持っているというふうに考えております。翔和学園は、その能力を引き出し、さらに高めていこうということで、本当に教師の皆さんお一人お一人が全力で子供たちに向き合っている大変すばらしい学園だというふうに思っております。
 こうした熱意や手法を本県の教育にも広げていっていただくことができればという思いもあり、発達支援を専門に行う学びの場の公募を行い、その結果、長野翔和学園が平成26年4月に開学したところであります。長野翔和学園におきましては、一人一人の子供たちが持つ能力や適性をきちんと把握をした上で個々の状況や興味に応じた教育を行うよう工夫がなされておりまして、自己肯定感が高まり、苦手だった物事にも自信を持ってチャレンジする姿が見られております。
 私も、文化祭や入学式などの行事に出るたびに、スタッフの皆さんの熱意と、子供たちが生き生きと生活されている姿を見て大変うれしく思っております。この春までに学園を巣立った5名のうち2名は一般企業へ就職をしておりますし、3名は福祉就労事業所で、翔和学園で学んだことを生かして、新しいかかわりを築きながら働いております。一定の成果は出つつあるのかなというふうに思っております。
 ただ、今後でございますが、現在、翔和学園には約40名の子供たちが在籍しておりますけれども、在籍者数は増加傾向ということであります。教育場所、あるいは教員の体制、こうしたものの充実が必要な状況になってきているというふうに思います。学園のお考えを十分お伺いしつつ、県としても協力をしていきたいというふうに思っております。
 また、翔和学園が行っております発達障害に関する先進的な教育のノウハウをぜひ普及していきたいというふうに思っております。県におきましては、今、子どもの個性を伸ばす教育研究モデル事業運営協議会を開催して、これは翔和学園の関係者にも参画をしていただいて、高校年代の子供たちを対象とした放課後等を活用して行う教育プログラムについて検討しているところでございます。県内の現場にもさまざまな翔和学園のノウハウが広く普及していくようにこれからも取り組んでいきたいというふうに考えております。
 以上です。
      

◆石和大

 

 さきにも述べたとおり、一言で発達障害と言っても、その特性は一人一人違うわけです。幼少期から成人まで社会全体がこのことを理解し、できる範囲で気配りや工夫をしていければ、誰にとっても暮らしやすい社会に近づくというふうに思います。もう少しみんなで学び合えることを願います。この学びと理解、そして適応は、必ずや信州の自治を高めることにつながることになるというふうに考えております。大いなる可能性に期待をし、質問を終わります。