平成30年2月定例県議会 発言内容(埋橋茂人議員)


◆埋橋茂人

   

 私は、日欧EPA、TPP11、以下、EPA、TPPと申しますが、による長野県農業への影響と対策について伺います。

 EPAに続いてTPPが合意に至り、米国が参加していないとはいえ、大きな影響が農業分野で想定されています。
 県が、2月16日、県TPP農業分野等対策本部会議で示した農産物の影響試算では、最大でTPPで13億5,900万円、EPAで6億900万円、計19億6,800万円となり、12カ国時のTPP影響試算より1億3,000万円ほど多くなっています。また、政府試算と同様のベースで試算したとしておりますが、農業者や関係者の意見等を伺うと、その心配は大きく、実態を踏まえない試算なのではと大きな懸念が示されています。
 先ほど丸山議員が園芸を中心に触れられましたので、私は、特に畜産分野での影響に係る懸念を申し上げます。
 牛肉と豚肉でのTPP、EPAの影響額は、牛肉で5億1,800万円と2億2,200万円、豚肉で2億9,900万円と2億7,900万円の影響があるとされています。農産物生産額計に対する平均影響額割合では、TPPで0.4%、EPAで0.2%に対して、牛肉では5.8%と2.4%、豚肉では5.6%と5.2%であり、農産物平均の影響額割合よりかなり高くなっていることから、その影響の大きさを懸念しているところです。
 牛乳・乳製品では、TPPで5,400万円、EPAで3,100万円とされ、牛肉や豚肉と比較して影響額は低く算定されていますが、歴史的に蓄積されたワインとチーズの食文化を持つEUからのチーズの輸入急増が想定され、国内の酪農地図に大きな影響が出るのではと懸念されます。
 現状では、北海道以外の酪農を維持する観点から、国内では圧倒的な競争力を持つ北海道において生乳の本州等への移出を調整し、道産乳をバターやチーズ等の加工向けとすることで全国の生乳生産と価格の安定を図っています。
 ちなみに、欧州では、牛乳は母乳の代替品として育児に不可欠なものであり、産地の分散化と手厚い保護施策により、地域ごとに生産維持を図っています。
 EPAによりチーズ類の輸入が増加すれば、将来的には、従来バター、チーズ等の加工向けになっていた北海道産の牛乳が本州等に大量に流入することが懸念されます。現在も、茨城県の鹿島港に拠点が整備されており、移出体制は整っていると聞いております。こうした影響が将来的に想定される中で、牛乳・乳製品の県影響試算結果としてそれぞれ5,400万円と3,400万円、計8,800万円という数字で済むとは到底思えません。
 このように、県による畜産に係る影響試算結果は余りにも小さい金額と考えられます。そこで、こうした結果となった試算の根拠と、これらの影響を踏まえた県としての畜産分野での対応策について農政部長に伺います。
 続いて、EPA・TPP影響試算では算定されていませんが、これからの長野県の6次産業化、食品加工、輸出の目玉であるブドウ栽培、ワイン醸造に大きな影響が出ることが必至なワインの輸入自由化について伺います。
 せっかく生産基盤や消費が拡大し、揺籃期から成長期に入ろうとする信州のワイン産業にとり、1本100円近く安くなるとの試算もある外国産ワインとの競合は大変厳しいものになることが予想されます。県として、信州ワインバレー構想の推進に当たり、今回のワイン産業への荒波をどのように乗り切るのか、産業労働部長に伺います。
 続いて、主要農作物種子法、以下、種子法と言いますが、廃止の影響と対応について農政部長に伺います。
 種子法が本年3月31日をもって廃止され、以降は、稲、麦、大豆の種子、以下、主要種子と言いますが、については種苗法の適用を受けることになります。まだ現行法が生きているにもかかわらず、昨年の11月15日付で、農林水産事務次官名で「稲、麦類及び大豆の種子について」という通知文書が出されています。その中で、種子法廃止後の都道府県の役割について、都道府県に一律の制度を義務づけていた種子法及び関連通知は廃止するものの、都道府県がこれまで実施してきた主要種子に関する業務の全てを直ちに取りやめることを求めているわけではない。ここがみそであります。長いので中間を省きますが、民間業者の参入が進むまでとの条件つきで都道府県内における主要種子の生産や供給の状況を的確に把握し、それぞれの都道府県の実態を踏まえて必要な措置を講じていくことが必要であるとされています。
 また、種子の品質確保については、従来は都道府県が指定した種子の圃場に限って品質の確認が行われていたが、今後は民間業者が生産する種子を含めた全ての種子について品質確認を行うこととなるとし、民間事業者への種苗の知見の提供については、今後、都道府県、試験研究機関のことでありますが、から種苗の生産に関する知見を民間事業者に提供する事案が増加すると考えられ、(中略)知見の提供に当たっては、適切な契約を締結することが必要であるとされています。まさに県の見識、戦略が問われています。
 そこで、農政部長に伺います。
 1、この事務次官通知を受けて、県として措置すべきことをどのように整理しているのか。
 2、民間事業者が生産する種子を含めた全種子について品質確認を行うとあるが、どのような仕組みで行うのか。
 3、民間事業者からの知見の提供要請は既にあるのか。また、今後、民間事業者との契約に当たっては、どのような項目を盛ることが必要と考えているのか。
 4、酒井議員、備前議員、昨日の今井正子議員や私のこの件に関する質問に対して、県として従来と基本的な対応は変わらないとの答弁をいただいているが、県として、稲、麦、大豆等の主要農作物の種子の安定的な供給を今後どのように行っていくのか。県としての対応をいま一度確認させてください。
      

◎農政部長(北原富裕)

 

 農業問題について順次お答えいたします。
 初めに、日EU・EPA及びTPP11の本県への影響試算の根拠と畜産分野への対応策についてですが、国の試算は、畜産分野では輸入品と競合が予想される等級の低い牛肉や豚肉、加工原料用のハード系チーズなどの価格低下を想定して算出しておりまして、県における今回の試算は国に準じて算出しております。
 試算の結果、畜産の影響が比較的大きくなっておりますので、影響緩和対策として、乳用牛では畜産クラスター事業による搾乳ロボット等省力化機械の導入支援や、AI、ICTを活用した飼養管理システムの導入支援、肉用牛ではゲノミック評価を活用した優良後継牛の生産拡大、豚では子豚を2から3頭多く産める多産系母豚の導入の拡大などによりまして生産性の向上を進めてまいります。また、消費者が求める安全、安心を担保するため、農業HACCPや畜産GAPへの取り組みの拡大も進めてまいります。これらの取り組みによりまして、国際化が進む中にあっても、県内の畜産農家が安心して経営を継続できる基盤づくりを進めてまいります。
 次に、主要農作物種子法の関係でございますが、初めに、廃止に伴う国の通知を受けての県の措置についてですが、種子法が今年度末に廃止されるに伴い、これまで法律で規定されていた都道府県による業務の義務づけがなくなることとなります。
 県では、これまで実施してきた県及び長野県原種センターの業務を継続して実施するため、県内の栽培に適した品種を選定するための試験、また原種及び原原種の生産、農業改良普及センターによる種子生産圃場の審査や生産物審査、またそれらの審査証明書の交付などにつきまして具体的な業務内容を整理し、県の実施要綱・要領に規定する予定としております。
 次に、都道府県による種子の品質検査についてですが、国は、種子法廃止後の主要な農作物の種子の品質については原則として種苗法に基づき検査を行い、優良な種子の品質を担保することとしております。一方で、都道府県が圃場審査や生産物審査を実施し、基準を遵守していることが確認された種子については種苗法に基づく検査は必要ないとしております。このため、長野県原種センターとの契約により生産される種子については、今までどおり県が圃場審査、生産物審査を実施し、品質を確認してまいります。
 また、民間事業者が生産する種子につきましては種苗法に基づく審査が必要ですが、複数の都道府県にまたがって種子の生産、販売等を行う大手の種苗業者など広域種苗業者が生産する種子は、国が直接確認業務を行うとされております。現時点では、長野県が審査を行う業者はございません。
 次に、民間事業者への知見の提供についてですが、現時点において民間事業者から知見の提供要請はございません。農林水産省は、県が持つ知見を民間事業者へ提供するに当たっては、事業者の品質開発等の考え方を確認し、我が国農業の国際競争力の向上に資する取り組みであるかを検討した上で共同研究契約等を締結することが必要であるとし、品種の利用期間や利用範囲、品種登録を共同で出願すること、また、海外への種苗の流出防止など一定の条件を盛り込んだ契約とするよう助言をしております。
 県といたしましては、長野県がこれまで培ってきた品種育成に関する知見やノウハウは県民の貴重な知的財産であり、民間事業者への知見の提供に当たりましては、農林水産省からの助言を参考に、県民益を第一に考え、知的財産の保護と活用の両面を慎重に検討し、対処してまいりたいというふうに考えております。
 最後に、今後の主要農作物種子の安定供給についてですが、米、麦、大豆等の主要農作物の生産安定のため、優良な種子を県内の生産者へ安定供給していくことは極めて重要でございます。このため、昭和62年に、県、JAグループ、市町村等の出資により、種子の生産と供給を担う長野県原種センターを設立し、種子の生産と安定供給に30年以上取り組んできたところでございます。
 今後も、特色ある産地づくりと産地の持続的な発展に向けまして、原種センターを中心とした種子の生産供給システムを堅持するとともに必要な予算の確保に努めてまいりたいと考えております。
 以上でございます。
      

◎産業政策監兼産業労働部長(土屋智則)

 

 外国産ワインの輸入自由化への対応についてのお尋ねでございます。
 ナガノワインは、G7や米国大統領歓迎晩さん会で日本を代表して提供されるなど、評価が高まり、国内需要は上向きの傾向にございます。まずは、この動きを確実なものとしてまいりたいと考えております。
 先日東京で開催しましたワインフェスティバルは、大勢の来場者によりにぎわいを見せていたところでございまして、今後も、こうしたワインフェス等の開催や、さらに農政、観光と連携した取り組みなどを進めることによりまして外国産ワインに負けない国内でのブランド価値を高めてまいりたいと考えてございます。
 一方、日欧EPA、TPP11では、外国産ワインの関税撤廃と同時に日本ワインの輸出書類の簡素化など相手国への輸出規制措置の緩和も設けられているところでございまして、ナガノワインをこれから海外へ売り込む足がかりになるということが期待されるところでございます。
 そこで、ナガノワインの品質の高さを海外に発信するための取り組みを今年度から始めたところでございます。具体的には、大きな発信力を持つ海外のワイン専門家を県内に招聘したり、また、県内ワイナリーの国際コンクールへの出品に当たっての支援を行ってまいります。海外からもナガノワインを高く評価する声が聞かれるようになってきておりまして、こうした取り組みによりましてナガノワインの国際知名度の向上につなげてまいりたいと考えてございます。
      

◆埋橋茂人

 

 続いて、働き方改革と、それにかかわる次期総合計画について知事に伺います。
 政府が働き方改革を掲げ、労働のあり方を抜本的に変えようとしています。裁量労働制の基礎データの誤りが多く、総理自身が陳謝し、今国会での裁量労働制の拡大は断念という事態になりましたが、高度プロフェッショナル制度等、問題の多い働き方改革関連法案そのものを進める考え方は変えていません。
 長野県の次期総合計画においては、労働政策が余り明確ではありませんが、働き方改革等労働政策に関する県の考え方を伺います。
 特に、県の重点目標の八つの中に、一つとして、「付加価値を高め、経済成長を実現」の項目で、労働生産性、2010年度、全国27位で1人当たり808万4,000円を、2020年度には1人当たり891万円とすることと並行して、二つ、「県民の豊かさの全国トップレベルを維持」の項目で、県民1人当たり家計可処分所得を、2014年度、全国8位で248万円を、2020年度には287万円とするとしています。
 労働生産性を上げることと可処分所得の向上は、一面、トレードオフとの見方もあります。働く者にとっては、真の働き方改革の実行と可処分所得の両方の向上が望まれると考えますが、どのように労働生産性と可処分所得を上げていくのか、その方策を伺います。
 続いて、悪質クレームの撲滅に向けた取り組みについて伺います。
 消費者からのクレームについては、真摯に受けとめ、適切に対処する必要がありますが、時には謝罪時の長時間拘束や土下座による謝罪の要求、人格を否定する暴言、威嚇、居座り等、明らかに一般常識を超えた悪質なものが少なくなく、働く者に大きなストレスを与えています。
 また、悪質クレームの問題は、単に流通サービス産業だけにとどまらず、教育現場におけるモンスターペアレンツを初め、県庁や市役所等の行政、鉄道やタクシー等の交通運輸等、人と接するあらゆる産業、業種の現場で起こっており、全ての生活者にかかわる社会的な問題ですが、その全貌はよくわかっていません。
 過日、厚生労働大臣宛てに、流通企業の労働組合の多くが加盟するUAゼンセンから、168組合、5万878人に及ぶアンケート結果を踏まえ、悪質クレーム対策に向けた2万4,000筆にも及ぶ署名簿とともに要請書が提出されました。厚労省において、労働問題、社会的問題の視点から検討されることとなっております。
 一つとして、県においても労働者を守る観点からの対応が重要であると思われますが、現状と課題についてどのようにお考えか、産業労働部長に伺います。
 二つとして、またサービスを提供する側と受ける側がともに尊重される消費社会をつくるためには、消費者教育、啓発の観点においても、いわゆる悪質クレームの事例情報を共有化し、適切な消費行動を促すプログラムの実施やポスターの作成、掲示等の情報発信、啓発活動の推進が必要と思いますが、今後の対応策を県民文化部長に伺います。
      

◎知事(阿部守一)

 

 労働生産性と可処分所得をどう上げていくのかという御質問でございます。
 労働生産性は、御承知のとおり、分母が労働投入量、そして分子が付加価値額という形になっております。今、喫緊の課題は、人手不足感が広がっているということでありますので、労働投入量、これは、働き方改革等で働きやすい環境をつくることによって女性や高齢者も含めて労働参加を促していくということが重要だと思っております。そうなりますと、分母がふえるわけでありますので、生産性を上げていくという観点で重要なのは、付加価値額をどう上げるかということであります。
 引用いただきました今回の総合計画の案の中でも、重点目標として労働生産性の向上ということを掲げてありますが、その中にも、付加価値を高め、経済成長を実現していく、付加価値を高めるということに力点を置かせていただいているところでございます。
 例えば、ものづくり産業におきましては、競争優位性のある技術等を生かした成長期待分野のシフトをしっかり促すこと、あるいは下請型の企業から価格決定力のある提案型、開発研究型企業への転換を促していくというようなことが重要でありまして、世界水準のIoTデバイスの事業化であったり、あるいは大学、企業の技術をもとにしたイノベーションの創出等によるオンリーワンの技術開発、こうしたことによって付加価値の向上を図っていきたいというふうに考えております。
 また、可処分所得を上げていく上では、付加価値の増大等も含めて企業収益を上げていくということがまず重要であります。人員削減のためのAI、IoT投資ということではなく、むしろ付加価値を上げ、生産性を向上していくという観点でのAI、IoTの活用も含めて、企業収益が増大する取り組みをしっかり後押ししていきたいというふうに思っておりますし、また、政府におきましても、賃上げに積極的に取り組む企業に対する支援税制の充実も図られてきておりますので、こうしたことを普及することによって企業の収益を働く人たちに還元していただくことができるような環境整備も行っていきたいというふうに思っております。
 以上です。
      

◎産業政策監兼産業労働部長(土屋智則)

 

 悪質クレームの現状と課題についてのお尋ねでございます。
 労政事務所での労働相談を初め、消費生活センターや教育委員会など県の相談窓口、さらには長野労働局におきましても、これまでの間、悪質クレームに係る事案は寄せられていないというのが実情でございます。
 悪質クレームにつきましては、悪質かどうかの明確な基準がなく、事業主が個別に判断しているということや、相手方が顧客であるということもあり、対応いかんによっては事業の妨げになってしまう場合があるといった難しさから、事案が顕在化しにくく、実態が把握しづらいということが、対策を進める上でまずもっての課題であるというふうに思っているところでございます。
 国におきましては、今回のアンケート調査と、それに基づく要請を受けまして、この問題について労働者の安全への配慮という観点から検討を進めることとしております。
 県といたしましても、その状況を注視してまいりますとともに、来年度、県の労働環境に関するアンケート調査におきまして、新たに悪質クレームの実態や事業主の対応などについて把握をし、今後の対策につなげてまいりたいと考えてございます。
      

◎県民文化部長(青木弘)

 

 悪質クレームに関する消費者への対応についてでございます。
 消費者には、事業者との間におきまして、情報の質や量、交渉力等の格差があることから、消費者基本法や長野県消費生活条例におきまして消費者の権利が定められているところでございます。そのことを前提としつつ、議員から御指摘がございました国における検討状況や、ただいま産業労働部長から答弁させていただいた県のアンケート調査の結果を踏まえる中で、消費者をめぐる課題の一つとしてどのような対応が必要か、また可能か、今後検討してまいりたいというふうに考えております。
 以上でございます。
      

◆埋橋茂人

 

 それぞれ前向きな御答弁をいただきましたのでぜひよろしくお願いをしたいと思います。
 TPPにつきましては、過日、熊本県で独自試算を行いまして、EPAで53%、TPPでは94%も増加するということになっております。国の試算方式が、対策を講ずれば影響が減ると、こういうやり方でありまして、基本の形にはなっていません。額の多寡より対策が大事ですので、ぜひ県でもよろしくお願いしたいというふうに思います。
 これで一切の質問を終わります。どうもありがとうございました。