平成29年9月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

   

 信州F・POWERプロジェクトについて御質問をさせていただきます。

 林業再生における新たなモデル事業として産官学金連携によりスタートしたこのプロジェクトは、このところの新聞報道等で、製材事業部門において苦慮していることが取り上げられました。また、発電事業のほうも手つかずの状態であることは御承知のとおりであります。
 こうした実態を把握するために、我が会派として、9月の初めに現地調査を行いました。その調査結果をもとに幾つか御質問をさせていただきたいと思います。
 まず初めに、原木の受け入れ態勢であります。
 現在、アカマツの原木につきましてはその受け入れを停止しておりますが、その理由について、征矢野建材では次のように述べております。まずは機械の調整に予想以上の時間がかかってしまったこと、そして、曲がり癖の多いアカマツ原木の扱いや夏場の青カビ、これは正確には青変菌と呼ぶそうですけれども、それらへの対応の難しさ、また、サプライチェーンセンターとの需給量調整の難しさなどを挙げております。
 さらには、世界初のシステムを採用したフローリング加工ラインの調整等で、安全、安心な製品ができ上がるまでに多くの時間を費やしてしまった。したがって、販路開拓や積極的な営業展開ができなかった。こういったことを理由として挙げております。
 しかしながら、考えてみれば、世界初という取り組みとなれば連続してトラブルが発生するなどということは当然予想できることであります。その辺の見通しが甘かったのではないかといった声もありますけれども、現在の機械設備の整備状況、稼働状況、歩どまり率などはどこまで向上しているのでしょうか。林務部長にお尋ねをいたします。
 また、アカマツの受け入れに関しては、松くい虫被害対策の一環として大変期待されておりました。ただし、6月から7月、この時期に伐採を行いますと、逆に被害が拡大してしまいます。なぜならば、松を枯らすマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリという虫が被害木から羽化してくるのがちょうどこの時期だからであります。また、水を吸い上げる5月から10月ぐらいまでの間に伐採しますと、水分を蓄えている分、冬場よりも重くなりますし、カビも発生しやすくなる。したがって、アカマツの伐採は、11月から翌年4月ごろの寒い時期が本来は最適なのであります。
 しかし、そうはいっても、F・POWERプロジェクトを早く軌道に乗せなければならないという思いや焦りもあり、年間を通じて受け入れてしまった。ところが、機械の調整が追いつかない。当然、原木もだぶつくし、カビも生えてくる。仕方ないので受け入れを一時制限し、在庫調整を行った。つまりはそういうことだろうというふうに思います。
 そもそも、年間を通じて安定的に原木を調達するということは非常に困難です。長野県森林組合連合会など県内の4団体でつくる原木の需給調整組織、サプライチェーンセンターも大変苦労されておりますが、やはりここは個別の流通システムを構築する必要があると思います。そして、この課題を克服しなければ新しい道を切り開くことはできないと思いますが、林務部長はいかがお考えでしょうか。御見解をお聞かせください。
 また、高品質を求める余り原木の受け入れ基準が厳し過ぎるという声もあります。あるいは、基準をクリアしたつもりで納品しても等級を落とされてしまう。単価も落とされてしまう。これでは今後原木は集まらないといった厳しい声も聞こえてまいります。
 ミズナラなどの広葉樹などについても同様ですが、受け入れ側が品質や利益を追求し過ぎますとこういった不満が出るのは当然のことであります。そうかといって、緩過ぎてもいけない。
 したがって、やはりここはコーディネーター役の県としても受け入れ態勢をしっかりと調整していただきたいと思いますが、今後の対応につきまして林務部長の御見解をお聞かせください。
      

◎林務部長(山﨑明)

 

 信州F・POWERプロジェクトについての御質問をいただきました。順次お答えいたします。
 初めに、製材施設の状況についてのお尋ねでございます。
 当プロジェクトの製材加工施設については、平成27年3月までに整備が完了し、4月から稼働しております。当初、世界初の製材加工システムの設備やラインのため、県産材丸太の規格に適合させるため、また労災事故もありまして、調整に多くの時間を要しております。
 平成28年度からは、製材ラインは、樹種や材の長さによりますが、一日当たり300立方メートル以上を製材できるまでの能力となっております。
 稼働状況につきましては、販売量との兼ね合いもありますことから、生産調整を一部行っておりまして、平成28年度の7万立方の丸太を製材する計画量に対しまして、達成率は約5割の状況となっております。
 また、歩どまり率につきましては、アカマツや広葉樹特有の曲がりや節を除去するために、建築用材より若干低い25%を想定しておりました。平成28年度では、それを若干下回っておりましたが、現在、林業総合センターでの技術指導に加え、節あり製品の販売開始等、歩どまり率の向上対策を進めており、本年度において向上が期待できる見通しとなっております。
 次に、製材施設への原木の安定供給についてのお尋ねでございます。
 今まで未利用であったアカマツ材等を安定的に供給するためには、個々の事業体での供給調整では継続性や安定性に課題があります。また、他の地区の施設への供給という部分も考慮し、県内では初めて、需給調整を担うサプライチェーンセンターを長野県森林組合連合会ほか4団体の構成で設置し、県が調整役となり、需給バランスや納材基準・単価及び広葉樹伐採情報とのマッチング等の調整を月1回の需給調整会議で行っております。
 このサプライチェーンセンターは県内の木材供給のかなめとなるものでして、今のところ、本施設の需要量に対しての供給達成率の実績では、平成27年度80%、平成28年度84%となっております。
 一方、この調整会議では、山側の出材に時間差があることから、需要量は3カ月、供給量は1カ月の極力精度の高い情報を出し合って調整しておりますが、天候等の影響による需要と出材との時期的なミスマッチや、広葉樹の伐採が少ないことによる広葉樹材の納材量の減少が生じるなど、苦慮している実態もございます。
 今後、さらにアカマツ、広葉樹とも計画的な伐採や需要情報の共有等により綿密な需給調整を図り、製材用原木の供給システムが安定的に機能するよう県としても調整を図っていきたいと考えております。
 続きまして、原木の受け入れ態勢についてのお尋ねでございます。
 原木の受け入れ側は、品質が確かで適正な価格の製品を製造販売していくために、ある程度厳しい納材基準と販売価格に見合う原料費を供給側に求めるのは一般的でございます。
 一方、供給側では、収益を見据え、計画的に伐採、搬出、納材を進めており、議員御指摘のとおり、山側と需要者側の要求のマッチングには難しい側面がございます。
 こうした中でも、この取り組みが始まったことによりまして、今まで活用されにくかったアカマツについては確実に木材価格が上がり、消費量も増大してきていることも事実であると認識しております。
 本施設は、林業県を目指す本県にとっても極めて重要な施設であることから、今後は木材流通やそのシステムに知見のある専門家のアドバイスを受けるなど、原木の受け入れ態勢について供給側と需要者側、双方向での調整を図ってまいりたいと考えております。
      

◆依田明善

 

 次に、販路の拡大についてお伺いいたします。
 平成25年に長野県と塩尻市、そして征矢野建材の連名で公表された当初の計画段階では、製品の販路においては一部上場している大手建材メーカーが担うことになっておりました。
 この会社は、県内の多くの建材店や建設業者からもひいきにされている優良メーカーであります。床材についても、合板と無垢材を張り合わせた製品等のシェアは高く、品質も高いことで知られております。
 そんな中、この建材メーカーは、過去において無垢の床材の製品化に挑戦したことがあったそうです。ところが、いざ研究を始めてみると、曲がる、ねじれる、反り返る、変色するなどで品質が一定せず、試行錯誤をさんざん繰り返したけれども、結局、納得できるような安心、安全の製品ができなかったようであります。普通に考えれば、多くの開発費も投入していることでしょうし、ある程度で妥協し、それなりの製品を販売することは可能ですが、この建材メーカーは潔く断念したそうであります。
 そういった苦い経験を持つこのメーカーが、このF・POWERプロジェクトに当初から参加しております。その理由として、この事業が長野県の森林資源を大いに活用し、林業の発展に寄与する画期的な事業であり、感銘を受けたからだとのことであります。
 であるならば、製品開発や販路拡大において、まさにリベンジするような心意気で今まで以上に頑張っていただきたい、そう思うわけであります。熱い思いを持って集結した当時の関係者の皆さんが、もちろんこれは意見の対立等もあるでしょうが、もう一度原点に返って力を合わせる。このことは極めて重要だと思います。県からも、ぜひそのことを強く働きかけていただきたいと思いますが、林務部長の御見解をお聞かせください。
 次に、製品開発と地場産業の育成についてお尋ねいたします。
 自然環境を生かした地場産業と言えば、やはり農業、林業、建築業、酒づくりなどが挙げられますが、こういった産業においては、世界最速とか国内最大といったキーワードは余りなじまないように思います。このF・POWER事業においても、分速60メートルを可能とした世界最速の製材システムということで話題になりましたが、3年前、私は、一般質問で、床材の大量スピード生産ばかりがクローズアップされているが、この事業は構造材等の需要の掘り起こしが大きな鍵をにぎっていると指摘をさせていただきました。
 言うまでもなく、木造住宅は床材だけで成り立つものではありません。柱、はり、桁といった構造材が中心となるわけですが、こうした構造材や建具材を安く提供できれば、地場の工務店や職人、あるいはまたエンドユーザーにとって大きなメリットになるわけであります。
 先日も、信州大学などが人工衛星やドローンを使って松枯れの被害状況を調査する実験を開始するといったニュースが飛び込んでまいりました。もはや樹木の一本一本の詳細なデータを集めることは可能ですし、そのビッグデータをもとに、まさに適材適所を可能とする多角的な森林ビジネスを展開できる時代になりました。このチャンスを逃す手はないと思います。
 また、現在のF・POWERの工場では、極力節のない製品を目指しておられますが、木の節をありのままに見せたフローリングや内装材の人気というのは今後さらに高まるのではないでしょうか。ですから、もう少し製品の幅を広げてみてはいかがかというふうに思います。
 現地調査の際に、現在中心となっているフローリング材のほかに展開を考えているものがあるというふうにお聞きしましたが、どのような製品展開を考えているのか、林務部長にお伺いいたします。
 次に、発電事業についてお聞きいたします。
 本年2月定例会時点で、発電事業にかかわる工事契約、出資契約、融資契約等の締結に向けた最終調整を行っており、これらが終わり次第、契約を締結して事業に着手するとのことでした。現時点で県が把握している今後のスケジュールについて、林務部長にお伺いいたします。
 また、バイオマス燃料については、松くい虫の被害木、間伐材、製材工場からの破材等を充てるとのことです。しかし、これらが不足した場合にはどうされるのでしょうか。もし仮に外国から燃料を購入するというような事態になれば、これは本末転倒であり、このプロジェクトの骨幹にある本県の林業振興や健全な森林の育成と大きくかけ離れたものになってしまいます。
 私は、県内からの安定的な原料調達こそが発電事業の一番のポイントであると考えておりますが、県としてはどのようにお考えか、また、現在の事業主体における原料確保の見通しについて林務部長にお伺いをいたします。
 最後に、知事にお伺いいたします。
 このF・POWERプロジェクトは国内初のシステムだということであります。それを軌道に乗せようと日夜奮闘している関係者の皆さんには心から敬意と感謝を申し上げたいと思いますが、私は、県に対しても、これまで以上に事業主体に寄り添い、問題の解決に向けて最大限の努力をお願いしたいと強く要望いたします。
 最後に、このプロジェクトを推進していく上での課題認識と今後の対応について、改めて知事の御見解をお伺いし、一切の質問といたします。
      

◎林務部長(山﨑明)

 

 大手建材メーカーと関係者への県の働きかけについてのお尋ねでございます。
 現在市場で取り引きされている床材製品の主力は広葉樹を利用するもので、国産針葉樹材を活用した無垢床材は、新しい製品として、今後一層の需要拡大を図る必要があります。
 このため、この建材メーカー等、当初の関係者はもちろんのこと、大手木材流通会社や大手住宅メーカーなど、アカマツ無垢材の床材に関心がある多様な事業者に対して営業強化を図っておりまして、県としても針葉樹無垢材製品のよさ等を積極的に消費者や工務店の皆さん等にPRするとともに、関係者の販路拡大の取り組みを一層支援してまいりたいと考えております。
 次に、製品展開についてのお尋ねでございます。
 現在の製品としては、フローリング材に加えまして、木造住宅の構造材として需要が多いヒノキの土台材、カラマツの外壁材の展開を始めております。また、規模の大きな木造建築にも対応できる接着重ねばりの製造販売も進めているところでございます。
 今後は、これらの製品の製造販売を伸ばしていくとともに、多様化する住宅様式、あるいは消費者ニーズを的確に捉えた製品の製造販売を展開していくこととしております。
 県といたしましては、林業総合センターの技術指導や関係者とも連携した消費ニーズのマッチング、販路開拓となる製品出展をサポートするなど、本取り組みを支援してまいります。
 続きまして、信州F・POWERプロジェクトの木質バイオマス発電事業計画のスケジュールについてのお尋ねでございます。
 発電事業計画につきましては、本年2月定例会時点で御説明したスケジュールから若干のおくれは生じていますが、平成32年度の商業運転開始に向け、現在、出資者間において出資契約等の締結に向けた調整が進められております。
 次に、発電事業における原木の安定確保と原料確保の見通しについてのお尋ねでございます。
 県といたしましても、議員御指摘のとおり、県内から安定的に原料を調達し、本県の林業振興に資する取り組みとなることが重要であり、基本であると考えております。
 また、原料調達に関しましては、事業主体におきまして必要量の確保に向けた調整がなされており、これまでにサプライチェーンセンターとの間で安定供給に関する意向書が締結され、一定の見通しを得ております。
 県といたしましては、県内の森林資源が有効に利活用され、原料調達が円滑に行われるよう、引き続き関係者間の調整に努力してまいります。
      

◎知事(阿部守一)

 

 信州F・POWERプロジェクトを推進していく上での課題認識と今後の対応についての御質問でございます。
 まず、依田議員からの一連の御指摘は、極めて重要な視点が含まれているということでしっかり受けとめさせていただきたい、そういうふうに思います。
 このF・POWERプロジェクトは、長野県を森林県から林業県へと飛躍し、展開させていくという上で、大変重要なプロジェクトだというふうに考えております。
 そういう中で、現在稼働しております製材事業につきましては、林務部長からもるる御答弁申し上げましたとおり、製品の販路開拓、そして原木の安定供給、これが課題だというふうに考えております。
 県といたしましても、新しい販売先の開拓、あるいは市場ニーズとのマッチング等にしっかりと協力をしていきたいというふうに思いますし、原木供給を担うサプライチェーンセンターとの調整等についても積極的に行って、製材事業の安定化を図っていきたいと考えております。
 このプロジェクトの重要性に鑑みまして、今後このプロジェクト全体を軌道に乗せていくべく、関係者間での情報共有をしっかり行っていきたいというふうに思っておりますし、加えて、中島副知事をキャップとする全庁的な態勢を整えて、県としての役割をしっかりと果たしていくべく全力を尽くしていきたいと考えております。
 以上です。