平成29年6月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

   

 最後の一般質問であります。よろしくお願いいたします。

 国家戦略特区、今回は農業特区について御質問させていただきます。
 長野県の野菜生産は常に全国をリードしてきております。特に、夏場のレタスの供給においては、川上村や南牧村といった南佐久の南部地域が全国シェアの実に9割を占めるなど、驚異的な生産量を誇っております。もちろん、その分多くの労働力が必要になるわけですが、かつては、アルバイトの求人広告を出せば、都会からうら若き女子大生や屈強な若者が数多く集まってまいりました。女学生の皆さんも、地元の青年と一緒に農作業をする中でお互いの気心も通じるようになり、やがて結婚というゴールを迎える。当時の農家の独身男性は、お嫁さんの候補者探しに困ることはありませんでした。
 また、地元の高校生なども、夏休みを利用し、住み込みで農家のアルバイトに精を出しておりました。かく言う私もその中の1人ですが、一つ屋根の下で家族同様の生活を送り、朝4時ごろ起こされ、眠い目をこすりながら白い長靴をはいて畑に向かうという日々はとても思い出深いものがあります。
 ところが、今は残念ながらそういった光景はほとんど目にすることがなくなりました。学生アルバイトも皆無ではありませんが、求人広告を出しても反応は極めて鈍く、たまに応募があっても半日ももたない若者が珍しくありません。これを嘆かわしい現実として私も一般質問で訴えたことがありましたが、農家としては悠長なことは言っておられません。何か対策を講じなければ産業も経済も崩壊してしまう。そこで注目されたのが、外国人技能実習生の皆さんであります。
 現在、長野県においては、中国、フィリピン、台湾、ベトナムといった国々から1,900人ほどの実習生が受け入れられております。そのうち、佐久地域では約1,400人、実に7割を超える実習生が川上村や南牧村を中心に活躍をしております。勉強熱心の上、素朴で働き者で礼儀正しい青年が多いため、農家の皆さんにはとても信頼されております。秋の収穫を祝う農業祭などでは、すっかり気心の知れた農家の皆さんと祭りを楽しむ、そんな微笑ましい姿も数多く見受けられます。
 そのような中、県は、このほど、外国人の農業就労の解禁などについて国家戦略特区を国に提案する方針を示したところであります。御存じのとおり、現在の日本においては、外国人が労働者として農業に就労することは認められておりません。それがいよいよ特区として解禁になる、しかも技能実習制度と絡めながらの動きでありますので、幾つか質問及び要望をさせていただきたいと思います。
 まず初めに、基本的な部分をお伺いいたします。
 県では、外国人の農業就労の解禁などについて国家戦略特区を国に提案する方針を示したところでありますが、この外国人技能実習制度が本県の農業分野においてどのように活用されているのか、その現状及び課題についてお伺いをしたいと思います。
 また、国家戦略特区とはどのような制度であり、農業分野では現状どのように活用されているのかお伺いいたします。
 次に、これから国に提案しようとしている国家戦略特区の取り組みはどのような内容なのかお伺いいたします。
 もちろん、外国人技能実習とは制度が違うわけですが、実習制度の要件緩和と抱き合わせの提案ともお聞きしております。丸山栄一議員からもメリットは何かといった質問がありましたが、なかなかイメージを描きにくいという声もあります。夏場は高原野菜、冬場は中野のキノコ工場で働くなどといった、農家にとっても実習生にとっても使い勝手のよい制度でなければならないわけですが、詳細をわかりやすくお聞かせいただければと思います。
 次に、この戦略特区申請ですが、秋田県大潟村、茨城県などでは大分先行しているようですが、さまざまな要件があるように聞いております。例えば、どの地域が新たに特区に指定されるかは、各地域の申請内容を国が精査する中において、より制度目的に合致する内容であることが条件だと聞いております。かつまた、国家戦略特区制度を活用し、いかに地域の産業を活性化させるかというビジョン、つまりほかの地域と異なる特色がいかに前面に出ている提案かが問われるようであります。
 これらは大変ハードルが高いように思われますが、今回の提案は、国家戦略特区への指定を実現するためにどのような特色を持っているのか。そして、この提案はいつごろ行う予定なのか。さらには、県が行う提案について、国はどのようなプロセスで検討されていくのか。
 以上5点、農政部長にお答えをいただきたいと思います。
      

◎農政部長(北原富裕)

 

 国家戦略特区への提案についての質問に順次お答えをさせていただきます。
 まず、本県農業におけます外国人技能実習制度の現状と課題でございますが、農業分野においては、耕種農業、畜産の二つの職種において、畑作・野菜や果樹など6作業の技能実習が可能でありまして、平成26年度では、茨城県に次いで全国2位の受け入れ数となっております。特に、南佐久地域では、野菜産地における農業者の規模拡大に伴い多くの作業人員が求められており、県内の約8割を占める技能実習生の受け入れを行っております。
 一方、現在の実習制度は、実習生の在留は連続した期間に限られ、一旦帰国すると再入国が認められないことですとか、実習生が実習できる農家は同一の農業者に限られるなどの要件がございまして、冬季間の技能実習が困難な南佐久など高冷地の野菜産地では、2年目、3年目の実習につなげられないといった課題を抱えております。
 次に、国家戦略特区の制度についてでございますが、国家戦略特区は、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、規制全般に対して突破口を開いていくものであり、地域の提案に基づき、国が定める区域において規制改革を実現する制度とされております。
 農業分野では、これまでに農家レストランの農用地区域内での設置の容認ですとか、企業による農地取得の特例などが特区区域内の規制改革事項として実施されております。また、農業分野における外国人の就労解禁を盛り込んだ改正法案が今国会で成立をしているところでございます。
 次に、今回の特区提案の内容についてでございますが、外国人技能実習制度の要件緩和と専門技能を持った外国人の農業就労の解禁をパッケージとして、JA長野県グループと共同で行う内容となっております。技能実習の要件緩和につきましては、先ほど述べました長野県におけます課題を解決するために、実習期間中の一時帰国と再入国を認めること、ですから、例えば、4月に実習生が見えまして、11月の作業が終わり、一旦本国に帰国して、もう一度4月から11月まで来てもらうということを2年なり3年なり続けるという内容を考えております。当然、そのときの管理する団体については、責任を持つところができるということでございます。
 また、もう一つは、年間を通じて実習ができるように複数の農業者での技能実習を認めることということで、議員が事例として言われましたような、夏は野菜で冬はキノコの実習をするなど、農業者を変えることも想定しての提案となっております。これによりまして、実習生の2年目、3年目の実習が可能となり、農業にかかわる専門技能の確実な習得につながるものと考えております。
 また、二つ目の外国人の農業就労につきましては、全県を対象とすることで、高原野菜のみならず、果樹ですとか施設園芸、またキノコなど長野県が持っております多様な作物での就労が可能になるというふうに考えております。
 次に、今回の提案の特色でございますが、一つは、先ほど申し上げました外国人技能実習制度の要件緩和と外国人の農業就労をパッケージで提案するということでございまして、これは長野県が初めての提案でございます。
 二つとしましては、先ほど申しました多様な農業が展開されている長野県ならではの幅広い品目での受け入れが可能であるということです。
 三つとしましては、JAグループとの共同提案によりまして、責任ある派遣事業者を確保した受け入れ態勢の構築が可能になるということでございまして、これは、受け入れ側でのきちんとしたコンプライアンスの確保、またさらには来られる実習生、また外国人の方々の安定にもつながるのではないかということでございます。これらが他県にない特徴と考えております。
 次に、提案の予定などでございますけれども、この提案は随時受け付けられておりまして、私どもの準備が整い次第、できるだけ早く速やかに内閣府へ提案を行ってまいりたいと考えております。
 なお、提案に対する国の検討につきましては、国家戦略特区ワーキンググループ委員によります提案の選定、提案者へのヒアリングの実施、また、関係府省庁に対するヒアリングや折衝の後に国家戦略特別区域諮問会議において調査、審議、対応方針の決定が行われることとなっております。
 以上でございます。
      

◆依田明善

 

 次に、外国人就労がいよいよ可能となった場合ですが、言葉も習慣も文化も違う外国人を雇うわけですから、雇用はルールを守って適正に実施されることが必要であります。丸山大輔議員も治安の悪化等への懸念を抱いておりましたが、トラブルの防止など受け入れ態勢もしっかりと整備する必要があると考えますが、県として受け入れ態勢などをどのように考えておられるのかお尋ねをいたします。
 また、今回の国への提案はJAとの共同提案とお聞きしておりますが、なぜそうされたのか。そして、区域が指定された後の行政の役割、JAの役割をどのように考えておられるのかお聞かせをいただければと思います。
 次に、技能実習制度でありますが、今までのルールですと、在留期間は最長3年間でありまして、一旦帰国してしまえば再入国は認められませんでした。ところが、今度の提案では、実習制度において、一時帰国と再入国を認めるという提案であります。私もかねがね要望していたことでありますので、大歓迎であります。これは、ぜひとも実現をしていただきたいと思います。
 また、実習の期間は3年が限度でありましたが、昨年、技能実習生に関する法律が改正されました。優良な実習実施者や管理団体に限って4年から5年目の技能実習が可能となり、本年11月1日から施行されるわけであります。農業を習得するには5年という歳月は最低限必要でありますし、国や県の青年就農給付などもそういった考え方が基本となっております。5年間の中で基本を学び、独立して健全な農業経営ができるようになれば、本国に帰った実習生も大いに活躍できるでしょうし、日本の農家の安定経営にもつながると思います。このあたりはできることならばもう少し拡充し、幅を持たせたほうがよいのではと思います。
 また、自動車運転においても、自由に運転することができれば農家としても助かりますし、実習生としての活躍の場も広がります。そんな要望も現場からは上がってくるわけですが、そのような提案もぜひ国に対して行っていただければなというふうに思います。
 なお、実習生の皆さんは、農業で得た収入のうちから所得税を払わなければなりません。中国の場合は、両国の間で租税条約が交わされておりますので100%免税となりますが、ほかの国々は1年に満たない就労の場合は20%の税金が日本国から徴収されるわけであります。ただし、1年以上の就労となると日本人と同等の扱いになり、所得税の源泉徴収が給与に応じた累進課税に移行する仕組みになっております。これを1年未満の就労者においても適用していただけるよう国に提案していただければと思います。
 そのほか、国民健康保険や年金、雇用保険の加入に関する課題などもありますので、簡単ではありませんけれども、以上4点、農政部長の御見解をお伺いしたいと思います。
 最後に、知事にお伺いいたします。
 これは昨年の話ですが、ある中国人の若者たちが集団でアパートに住むようになり、朝早くから迎えに来た車に乗り込んでどこかに出かけるようになりました。ある日、近所に住む中国語が堪能な日本人の男性が、あなた方は出稼ぎ労働者ですかと聞いたところ、不機嫌そうな顔をして首を横に振ったそうです。そこで今度は、あなた方は農業の技能実習生ですかと尋ね直したところ、途端ににこにこしながら胸を張って強くうなずいたそうです。
 この話を聞いたときに、愛する親元を離れ、遠い異国の地で働くには、やはり人間としての尊厳を保ち、働く意欲を保つことが大切なことなんだということを実感いたしました。質問した82歳の男性は、実はかつて満蒙開拓団の一員として小学生のころ満州に渡った方であります。帰国の際は、愛する弟たちを失いながら、命からがら両親と一緒に帰国したそうですが、その間、多くの中国人家族などに仕事や生活面、そして帰国の際も大分助けられたとおっしゃっておりました。受け入れる側も、やはり相手に対してそういった心遣いが必要であり、その積み重ねが健全な国際貢献、国際交流につながるのだろう、そんなことを感じたわけであります。
 本県農業分野における外国人材の活用につきましては、農業振興への貢献のみならず、諸外国の人材育成にも十分寄与することになりますし、県として国際貢献にも資すると考えますが、最後に知事の所見をお伺いし、一切の質問といたします。御清聴ありがとうございました。
      

◎農政部長(北原富裕)

 

 御質問に順次お答えをいたします。
 まず、外国人就労が可能となった場合の受け入れ態勢についてでございますが、議員御指摘のとおり、コンプライアンスを確保するための受け入れ態勢の整備は大変重要な点でありまして、県では、現在、国が考えております国、県、地方自治体などで構成する監視組織、適正受入管理協議会に加えまして、生産者団体のJAグループと連携しながら組織体制を敷き、より適正な受け入れ態勢を構築する予定としております。
 次に、JAグループとの共同提案の理由でございますが、海外からの農業分野における人材の受け入れを行う上では、生産現場により近いところで外国人材や受け入れ農業者のフォローを確実に行える体制を構築することが極めて重要と考えております。このため、県では、生産現場を熟知しており、責任ある派遣事業者の確保が可能なJA長野県グループとともに取り組みを進めていくこととし、共同提案としたところでございます。
 次に、区域指定後の行政、JAの役割ですが、国、県、関係市町村は、適正受入管理協議会として全体の監視や苦情、相談への対応を行います。また、JAグループは、派遣事業者の選定と運営、また、派遣先となります農業経営体への指導などの調整役として、それぞれ役割分担と連携のもと、進める計画としております。
 最後に、実習生に対します課税などの課題についてでございますが、議員御指摘の多くの課題があることは私どももお聞きしているところでございまして、今後、現場の状況を十分把握した上で実情を国へ説明してまいりたいというふうに考えております。
 私からは以上でございます。
      

◎知事(阿部守一)

 

 農業分野における外国人人材の活用についての所見という御質問でございます。
 昨年10月にベトナムを訪問したわけでありますけれども、農業分野における交流促進に関する覚書を締結しました。ベトナムでさまざまな方と会談する中で、我が国、あるいは長野県の農業に非常に関心を持っていただいて、学びたいというお話をいろんなところで伺ってまいりました。
 依田議員の御質問にありましたように、既に、本県農業分野におきましては、外国人の皆様方に支えていただいている地域もあるわけでありますので、今回、国家戦略特区としての提案が実現することになれば、こうした地域にとっては農業振興につながる大きなメリットになるものというふうに考えております。
 そして、その一方で、技能実習生にとっても、本県のさまざまな高い技術力、あるいは全国をリードする高原野菜や果樹、施設園芸、キノコ、こうした多彩な農産物に関する技術を習得することは、帰国した後、母国における農業振興にも大いに寄与するものというふうに考えております。そうした観点で、国際貢献、世界に貢献する信州という側面からも意義ある取り組みだというふうに考えております。
 以上です。