平成28年6月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

   

 中山間地における農業振興施策について御質問させていただきます。

 本県のように多くの山岳高原を抱える地域においては、平坦地では大規模農業を目指すことが重要ですが、同時に中山間地農業を元気にすることも極めて重要であります。それは、すなわち、山間部の人口減少を食いとめ、国土と水と文化を守ることにもつながります。そんな観点も含めながら御質問をさせていただきます。

 前回、私は、中山間地農業直接支払事業の中で、極端な高齢化と後継者不足によって苦悩する役員や会員の実態を紹介させていただきました。さらには、その現状を打開する対策として、都会の大学生や自治体の皆さんにも自由に運営者として参加していただけるような制度改正を求めました。農政部長からは、事業の見直しや拡充について国に要請してまいりたいという前向きな答弁をいただいたわけでありますが、その後の経過についてお答えをいただければと思います。

 実は、この件については、後日、みずからが加入する集落協定の総会の席でも会員の皆さんに本音を聞かせていただきました。すると、ある高齢の男性が、よい野菜のできる畑があちこち放置されたままだ。若い人に農業のコツを教えてあげたいのにもったいない話だよと残念そうな面持ちで話をしてくれました。食料不足や栄養失調を長らく経験された彼らにとっては、田んぼや畑イコール命の源といった意識が想像以上に高いことを改めて知りました。

 また、ある会員は、広くて平らな北海道の中山間農地と、傾斜がきつくて狭い長野県の中山間農地を一緒くたに考えている農水省の考え方はおかしいと不満をあらわにしておりました。ふだんは穏やかな方ですが、内心こういった不公平感を持たれていることにいささか驚きました。

 さて、本県の場合、県土の実に7割近くが中山間地であります。また、耕作面積で見た場合は、全体の54%、総農家数では56%、農産物の産出額では全体の48%を占めております。となれば、本県の場合は、農業施策の一つとして、中山間地農業に特化した本格的なイノベーションを起こしていかなければなりません。北海道との違いや従来のお取り組みとその成果について、農政部長、お答えください。

 次に、中山間農地といえば、急傾斜で狭隘な段々畑といったイメージが強いわけですが、そういった不利な条件を何とか克服し、生産性や収益性を上げていく必要があります。そのためには、まず農地の条件改善が必要不可欠ですが、中山間地域では、国が想定するような大区画化が困難であるというふうに考えます。そのような中で、長野県の中山間地域の農地の条件改善について、どのように考え、どのように進めていくのか。農政部長にお伺いをいたします。

 さらには、その戦略の一つとして今注目をされているのがスマート農業であります。日本語では賢い農業といった意味になろうかと思いますが、御存じのとおり、これは農水省でも推進している農業戦略の一つであります。ICTを活用した農業、つまりコンピューターと情報システムと最先端テクノロジーを駆使した未来型農業であると私は理解しております。

 では、具体的にこのスマート農業が普及すればどういう世界が期待できるのか。まず考えられるのは、精度の高い土壌検査によって土づくりのための具体策や連作障害対策などを簡単に知ることができます。また、どういった作物がどの地域のどの畑で栽培可能であり、どの程度の収入が見込めるのか、瞬時に検索することも可能となるでしょう。これらのデータが集積されれば、銀座NAGANOなどでも農業希望者の要望に即座に対応することができます。

 また、ロボットや最先端農業機械によって作業も楽になります。平場の広大な田畑では無人のトラクターなどが作業をこなすことも可能になりますので、農作業中の人身事故も激減することでしょう。また、ロボットスーツを着れば重い箱でも楽々持ち運ぶことが可能になります。さらには、傾斜のきつい畦畔の草刈りはリモコン式の草刈り機が活躍するので、自分の足腰を痛めることもありません。しかも、野菜と雑草を見分けることのできる高性能機械によって、気の遠くなるような草取り作業からも解放されます。

 管理面でいえば、ベテラン農業者によるノウハウや畑ごとの特性が入力された農業アプリによって、初心者であってもスマホやタブレットを片手に的確な判断を導き出すことができるようになります。あるいはまた、人工衛星等を活用した天気予報により、農作物被害を最小限に抑えたり、的確な市場調査により、作物の選定、作付面積の決定を行い、最高のタイミングで出荷することによって利益を最大限に確保することもできるようになります。長くて苦しい農業経験も必要とせず、土や農薬にまみれることもなく、よい品物をよい価格でよい時期に売り抜くことができる、まさに夢のような農業であります。

 しかしながら、国の示すこれらスマート農業を完璧に実現するには、莫大な資金力が必要となります。確かに、無人トラクター、草刈り機、ロボットスーツなどは実用化されつつありますが、脱サラした若夫婦などが気軽に始められるような農業ではありません。スマート農業の成功事例としてオランダがよく引き合いに出されますが、彼らとて現在のような姿になるまでには多くの苦難を乗り越えてきておりますし、今でもさまざまな課題を抱えていることも事実です。それでも、我が国に比べれば、地形、天候、エネルギー事情、隣国との関係等において恵まれている部分が多く、日本国内でいかに努力したとせよ、オランダと同じ成果を期待することは難しいと言わざるを得ません。

 施設園芸を例にとった場合、例えば段々畑にハウスを密集させて集中管理をしたとしても、棚田の美しい景観が損なわれるだけでなく、ゲリラ豪雨などが発生すれば、雨水がハウスの周辺に集中し、畑もろとも流されるのが関の山であります。しかしながら、そうは言っても、このスマート農業、本県でも取り組める部分は幾つかあると思います。その点も含めてお伺いをしたいと思います。

 まずは、スマート農業に対する全国での取り組み状況や本県における可能性、将来展望など、お考えをお聞かせください。本県においてできることとできないことは何か。それらにおいて具体的にお示しをいただければと思います。

 そして、本県の、特に中山間農地におけるスマート農業の取り組み事例があれば、その成果をお聞かせ願えればと思います。

 また、段々畑や段々田んぼ等は、農薬散布、いわゆる防除作業も敬遠される仕事の一つであります。大型のブーム機などは畑に入れないために、軽トラックにタンク、動力噴霧器、ホース等を積み、雨合羽、ゴーグル、マスク等で防護しながら、炎天下の中で汗だくになって噴霧作業をしている農家の皆さんがいまだに多いわけであります。せめてこういった作業だけでも遠隔操作ができれば、農業者の肉体的、精神的負担も大幅に軽減され、若い農業者の定着率も改善すると私は思います。中山間地農業特有のきつい作業をいかに軽減していくのか。

 以上、農政部長の御見解をお聞かせ願いたいと思います。

  

◎農政部長(北原富裕)

 

 6項目の農業関係の御質問に順次お答えを申し上げます。

 初めに、中山間地域農業直接支払事業の拡充についてですが、議員御提案の件につきましては、5月23日に、農林水産省農村振興局次長に対して、NPO法人等が取り組み主体になれる制度改正などについて、私から直接要請を行ってまいりました。その際、第4期対策が始まったばかりであり、すぐにとはいかないが、現地の状況をよく把握して検討していきたいとの発言をいただいております。今後も、機会あるごとに要請を行ってまいりたいと考えております。

 次に、北海道との違いや、その中での本県の取り組みと成果についてですけれども、多くの農地が傾斜地に存在する長野県は、販売農家1戸当たりの経営耕地面積が1ヘクタール余りでありまして、大規模経営体が大区画化された圃場を耕作する北海道の約24ヘクタールに比べ20分の1以下と、農業構造に大きな違いがございます。

 こうした条件を克服するため、長野県は、野菜や果樹などの労働集約型の園芸作物への転換に積極的に取り組み、変化に富んだ気候や地形を強みに変えて主産地を形成し、さらに新品目や新技術の導入により、全国トップクラスの園芸王国へと発展してきたものと認識をしております。

 現在においても、中山間地域農業直接支払事業などにより、耕作条件の不利な地域への営農継続を支援するとともに、消費者ニーズの高い県オリジナル品種の生産拡大や6次産業化の推進などの取り組みを進めているところでございます。

 次に、中山間地域の農地の条件改善についてでございますが、中山間地域の多い本県においても、今後の農地維持と生産性の向上を図るためには、不整形な圃場を地形条件に合わせて区画を広げ、乗用の田植機やコンバインなどが安全かつ効率的に作業できるようにすることで担い手への農地集積を進めることが必要と考えております。

 一方、基盤整備を推進する上では、事業に要する地元負担がネックとなっていることから、本年度から、農地中間管理機構を活用し、担い手への農地集積を進める地区について、団体営土地改良事業の県補助率を引き上げることとしたところでございます。これら事業を活用いたしまして、地元負担の軽減を図り、農地の条件改善を進めてまいりたいと考えております。

 次に、スマート農業の国内での取り組み状況についてでございますが、ICTを活用し、高度な環境制御を行うトマトやイチゴなどの次世代型園芸施設、また、労力負担を軽減するためのアシストスーツなどが既に実用化され、農業現場に導入されております。また、トマトなどの自動収穫機やGPSを活用した無人走行トラクターの開発などが実証試験の段階にあります。

 本県におきましても、施設園芸などにおけるICT活用や果樹栽培におけるアシストスーツなどは幅広く導入できるものと考えております。一方、無人トラクターなど平坦で大区画な農地での利用を想定した技術につきましては、本県では利用が極めて限定されるものと認識をしております。

 今後、農業分野におきますICTやGPSの活用、ロボット技術の導入などは加速度的に進むものと見込まれておりまして、生産性の向上、低コスト化に寄与するものと期待しているところでございます。

 次に、本県における取り組み事例でございますが、施設園芸では、小諸市のイチゴ栽培や中川村のトマト栽培において、温度や湿度等の環境制御を導入し収量増につなげている事例、また、果樹では、ブドウなどの棚栽培において、ひじを支えるタイプのアシストスーツを導入し管理作業の労力負担の軽減を図っている事例、また、酪農において、24時間体制の自動搾乳ロボットの導入によりまして、作業時間を大幅に削減し飼養頭数を2倍に拡大した事例などがございます。また、平成27年度から、県では、中山間地域を含む県内八つの稲作法人において、ICTを活用した圃場管理の効率化の実証を行っておりまして、コスト低減手法をマニュアル化し、早期に普及していくこととしているところでございます。

 最後に、中山間地域におきます農作業労力の軽減についてでございますが、県では、きつい作業であります水田の畔草刈りの負担を何とか軽減できないかとの発想の中で、平成27年度から、小型で自走する水田畦畔除草機をさまざまな分野の大学、企業と連携して開発を進めております。平成30年には、実用化に向けた試作機を開発したいということで、現在、鋭意取り組んでいるところでございます。

 今後も、労力の軽減や作業の効率化につながる機器や技術の導入を促進するとともに、農業現場のニーズと企業や研究機関が持つ技術をマッチングさせまして、中山間地域で活用できる技術の開発を積極的に推進してまいりたいと考えております。

 以上でございます。

  

◆依田明善

 

 御答弁をいただきました。

 農業の大規模化を図り、効率のよい農業を目指すことはやぶさかではありません。しかし、中山間農地の多くはそれを許さない事情が幾つもあります。であるとするならば、家族プラスわずかなアルバイトだけで仕事が間に合うような農業スタイルというのも真剣に追求していかなければならないと思います。そういう点では、スマート農業の理論も今後一つ一つ具現化させていく必要があろうかと思います。

 介護福祉の世界、あるいは建設業、商工業の世界においても、重労働に対する作業の軽減化が飛躍的に進んでおります。しかし、中山間地の農業はいまだに多くの人々がきつくて危険で非効率な作業に耐えております。根性、根気、体力のない者には用はない。そんな根性論だけでは、今どきの若者たちは納得しません。ぜひとも中山間地農業におけるスマート農業化を推進していただきたいと思います。

 また、近年は自然農法や自然栽培でつくられた、値段も付加価値も高い作物を求める消費者も年々ふえているようであります。そういう特殊な農業、あるいは農業セラピー、観光農業などは、景観にすぐれ、寒暖の差が大きく、霧にも巻かれやすい中山間農地だからこそ有利に事を進められる要素が多いと思います。ぜひとも人々の多様なニーズを探り出し、TPPにも左右されないような独自のビジネスモデルを貪欲に研究され、中山間地農業に新たな光を与えていただきたい。そのことを切にお願いを申し上げまして、一切の質問といたします。ありがとうございました。