平成27年11月定例県議会 発言内容(花岡賢一議員)


◆花岡賢一

   

 登山家であり小説家でもある故深田久弥氏が1964年に記した「日本百名山」が、昨今の登山ブームの中、あるところでは入門書、またあるところではバイブル的な扱いを受けています。

 作者がこだわった言葉に「百の頂に百の喜びあり」という言葉がありますが、この言葉を作者が死ぬまで抱きながら人生を全うしたことは有名であります。

 その100の名峰を選定するに当たり、いわゆる基準のようなものを、1961年に上高地で行われた開山祭、ウェストン祭で披露しています。すなわち、選定の基準という最も重要な内容を発刊の3年ほど前に本県で公にしていることとなるわけです。県土の約8割を森林が占め、その恩恵を享受し、県内外から毎年70万人を超える人たちが登山などで訪れる我が県にとって、この事実は近隣県からうらやましがられることであります。

 しかも、その披露した場所が、来年行われる、仮称であるようですが、国民の祝日「山の日」記念全国大会の開催場所と同じであることは、開山祭後54年を過ぎた今にあっても、その恩恵は共通の財産として確実に存在しています。

 その100の名峰選定基準は大きく三つありました。その一つに、人には人格があるように、山には山の山格、山の品格のようなものがある、誰が見ても立派な山だなと感嘆する山であること、二つに、昔から人間との関係が深く、崇拝され、山頂にほこらが祭られているような山の歴史があること、三つとして、芸術作品と同様に、山容、現象、伝統などほかにはないような顕著な個性を持っていることとありますが、現状を見ると気づくことがあります。

 100の頂きに決して選ばれることのない標高の低い山、里山を見るとその景観にため息が出てしまいます。木が枯れているのです。この、夏でも紅葉しているかのような現状を見て、国民の祝日が制定されることを素直に喜べない県民感情も当然存在しています。やはり、知事の思いにもあるように、全国でも有数な森林県である我が県において松枯れの現状に憂いを持たないわけがありません。

 また、本定例会を終えると、いよいよ施行の年となるこのときにあって、大々的に発信し、抜本的に対策を講ずる必要があると考えますが、阿部知事の御所見をお伺いいたします。

 また、森林税をいただいている以上、その用途に関しても議論と対策は尽くされている感がある中、いま一度選択と集中をもって当たらなくては、後世に確かな森、そして山の恵みを残すことはできない、そう私は感じています。そのために、間伐対策と同じウェートを持ってこの松枯れ対策を考えてみる必要があると考えています。

 一つの例を挙げますが、一連の森林組合の不正に当たって、不正は当然あってはならないことではありますが、その事実を確認したのと同時に、約1カ月でリカバリーを実行した報告があります。もともと技術的専門性を持っている方々のマンパワーに私自身驚いたのと同時に、集中することで計画よりはるか多くの伐採を可能とするキャパシティーがある、そういう報告も受けています。

 そして、空中散布についても議論と対策は尽くされている感が蔓延していますが、無人のヘリでの散布はところにより行われています。山へ入ることの難しい急傾斜地にはどのような対策が有効であると考えているのか。その内容を林務部長お伺いいたします。

 そして、森林税のうちおよそ2割が各市町村への森林づくり推進支援金として交付されているわけですが、その内容は森林づくりの名目で松枯れ対策に当てられている現状もある中、基礎市町村の協力なくしては進まない現状を考えると、その割合も見直すことはできないのか。その対策を林務部長にお伺いいたします。

 そして、太陽光発電に比べ施設稼働後の電力の安定供給が可能であるとの観点で注目されている木質バイオマス発電と、マツノザイセンチュウに感染している木への対応である、すぐ切って、すぐ運んで、すぐ燃やす、その対策が重要である以上、発電の原材料としてなり得るのではないでしょうか。その可能性を林務部長にお伺いいたします。

 

◎知事(阿部守一)

 

 山の日記念全国大会、そして松くい虫被害との関連で御質問いただきました。

 山の日記念全国大会、山の恵みにしっかりと感謝をし、そして、もう1回、山の豊かさ、資源、こうしたものを見直す機会にしていかなければいけないというふうに思っております。

 そういう観点で、御質問にありますように、松くい虫被害の問題についても私どもしっかりと目を向けて対応していかなければいけないというふうに考えております。

 松くい虫被害、拡大傾向が残念ながら続いてしまっているという状況の中で、看過できないものであるというふうに思っております。県としては、被害から守るべき重要な松林を特定した上で、松くい虫被害が拡大しないよう選択と集中によりまして対策を進めていきたいというふうに考えております。

 また、防除実施主体であります市町村に対しましても予算の確保、技術的な助言等を行う中で、国や森林組合等とも連携強化しながら、信州の松林を守るための取り組みを進めていきたいと考えております。

 以上です。

 

◎林務部長(塩原豊)

 

 松枯れ対策など3点御質問いただきました。

 まず、急傾斜地における松枯れ対策についてのお尋ねですが、松くい虫対策の基本といたしましては、県土の保全、景観上重要な守るべき松林とその周辺松林を指定し、これらの松林に集中して、被害木の伐倒駆除、空中散布や樹幹注入等の薬剤による予防事業、さらに樹種転換を効果的に組み合わせるなど、地域の実情を考慮しながら総合的な対策を進めているところでございます。

 御質問のありました、人が入ることが難しい急傾斜地では、一たび被害が発生すると被害木の伐倒駆除が困難になりますことから、予防を中心に対策を実施していく必要があります。

 具体的には、市町村が、住民の皆様の健康などの安全に十分留意して、地域を限定して有人ヘリコプターや無人ヘリコプターによる空中散布を実施し松くい虫被害の蔓延を防止するとともに、その周辺にある松林においては、感染源である被害木を除去するための伐倒駆除や樹種転換等を実施することで急傾斜地の守るべき松林への被害の拡大防止に取り組んでまいります。

 次に、森林づくり県民税を活用した森林づくり推進支援金についてのお尋ねですが、県では、森林づくり推進支援金により、地域固有の課題に対応いたしまして市町村が行う松くい虫被害木の処理や公共施設における県産材の製品の普及展示など、森林づくりに関連した取り組みを支援しております。

 この森林づくり推進支援金は、森林税による税収のおおむね2割を活用しております。平成20年度の森林税を導入させていただくときや平成25年度の森林税をさらに継続させていただくときに、市町村への森林づくり推進支援金の割合を含めまして、森林税活用事業の使い道や必要額を事前に県民の皆様に御説明し御議論をいただいた上で制度設計をしております。

 このため、森林税活用事業全体の大きな見直しがない中では森林づくり推進支援金の割合の変更は難しいものと考えておりますが、県といたしましては、今後とも、市町村と十分に協力をして、森林づくり推進支援金の有効な活用によって各地域の健全な森林づくりが進むよう取り組んでまいります。

 次に、松くい虫被害材の木質バイオマス発電への利用についてのお尋ねですが、松くい虫被害材の利用に当たっては、被害の蔓延を防止するため6月から9月の間は現場でのチップ化が必要になりますが、被害材は含水率が低く、木質バイオマス発電の燃料として適しております。

 被害材を燃料に利用することで、今まで森林内で処分されていた木材が新たに有用な資源として活用できるといった効果も期待できるところであります。現在稼働中の長野市のいいづなお山の発電所におきましては、松くい虫被害材を積極的に活用し、発電効率を上げております。また、今後稼働が予定されております信州F・POWERプロジェクト等の木質バイオマス発電施設においても、被害材の燃料利用が検討されております。

 県といたしましては、松くい虫被害材のバイオマス利用は被害拡大防止や再生可能エネルギー推進の観点からも有効な取り組みと認識しておりまして、市町村等関係機関の皆様と連携して利用促進を図ってまいります。

 以上でございます。

 

◆花岡賢一

 

 御答弁いただきましたけれども、山に抱かれ、恩恵を頂戴し、時に自然の恐ろしさを知っている本県にあられる皆様の中に、新しい国民の祝日、そのコンセプトでもある山への感謝を発信できる県政であり続けることを願い、次の質問へと移ります。

 時として往々にしてあることなのですが、時代の流れに法整備が進まない事例の一つに最近騒がれている民泊の存在があります。

 ここでは、先進的に我が県でも進められてきている地域も存在している農家民泊とはコンセプト上異質なものと捉え、切り離して考えることが妥当であるとは思いますが、この民泊は都内や大阪のような都市部での問題では全くなく、今や日本全国でまだら状に拡散してきている課題と捉える必要があります。

 国として観光立国宣言を行い、外国人観光客誘致のために推奨しているところもある中、あるところにおいては脱法ないしは違法にて操業が行われている、そんな現状があります。

 我が県においても、当然のごとく対象としてきているインバウンド、外国人観光客に来ていただき、その魅力の拡散等において注視していかなくてはならないということは言うまでもありませんが、政府が民泊のルールづくりとして大都市圏を規制緩和の特区に指定との動きもある中、実際に、私の選挙区、軽井沢町にあっては、民泊の仲介ツールとして世界各国で利用されているSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)であるAirbnbに登録されている施設が20件近く存在しております。

 この旅館業法との兼ね合いはもはや政府の言う大都市圏の話では全くなく、我が県にあっても直面している課題であると考えております。

 また、来年の伊勢志摩サミットにあわせてのG7(先進7カ国)交通相会合を控えているその背景もあります。

 そこで、知事にお伺いいたします。

 東京の大田区では一定の条件を示す条例案が示されてきていますが、国の法律が整ってからの対応であると後手に回ってしまうその可能性があるこの件について長野県としてはどう捉えているのかをお伺いいたします。

 

◎知事(阿部守一)

 

 民泊についての考え方という御質問であります。

 これは、御指摘のように、都会だけではなくて日本全体の問題だというふうに私も考えます。ただ、都市部と地方部では恐らくアプローチの仕方が大分違ってくるのではないかなと。今、特区で例えば大田区のような大都市部においては、従来の一般の旅館、ホテルの逼迫した状況を打破するためにこうしたものを活用するという方向で検討されているわけでありますが、他方で、私どもは、例えば客室稼働率、長野県、旅館、ホテル、必ずしも高い状況ではない中で、大都市部と同じような視点で物事を捉えるということでは必ずしも十分ではないだろうというふうに思っています。

 まずは、Airbnb以前の問題として、旅館業法があるわけでございますので、宿泊料を受けて業として宿泊させる行為、これは旅館業法の営業許可が必要であります。したがいまして、こうしたツールを活用して業としての取り組みを行いやすい環境になってきていますので、無許可営業というようなものが確認された場合には許可を取得するという方向で指導を行ってきているところであります。

 今後、市町村あるいは関係団体とも緊密に連携をした上で、実態の把握をしっかりと行って、厳正な指導を行っていきたいというふうに考えております。

 また、民泊サービスのルールづくり、国においては、検討会を設置して、来年、報告書を取りまとめる予定というふうに聞いております。こうした取り組みの動向、先ほど申し上げましたように大都市部といわゆる地方部ではいささか視点が違いますので、一方的な内容のものにならないように我々もこの動向をしっかり見ていかなければいけないというふうに思っておりますし、必要に応じて私どもからも意見を言っていくということも必要だというふうに思っています。

 いずれにいたしましても、この問題、メリット、デメリット両面ある世の中の動きでありますが、長野県にとってどういう形で受けとめていくかということはしっかり考えなければいけないというふうに思っています。

 ただ、その前提としては、やはり現行法制度はしっかり守っていただくということをあくまでも基本に置いて取り組んでいきたいというふうに思っています。

 以上です。

 

◆花岡賢一

 

 御答弁いただきましたが、大都市と同じように捉えることはなくても、県内の現状を考えると先ほどおっしゃられたとおりです。事宿泊に弱い地域も確かに存在しているわけです。ですけれども、これが、全県的に、先ほど申し上げたとおり、まだら状態で拡散することは非常に危険な可能性を含んでいることも事実でありますし、今までそのなりわいとして努力されてきた方々を、突然開かれた内容によって急な対策を立てていただかなければならない状況も発生しかねません。備えておくことは当然進めていただきたいことと、外国人観光客に来ていただく各地域地域、その独自のおもてなしによってウイン・ウイン、その関係ができ上がることを願っております。

 また、先ほど申し上げたAirbnbについてですが、2008年に米国で誕生して、10年を経ずして世界190カ国、3万4,000以上の都市でのサービスを展開しているわけですが、この非上場で企業評価が日本円で2,000億円を超えるユニコーン企業の大きな波の中、現状で対応することはまず不可能であり、まだら状にグレー操業が行われることは双方にとってマイナスが大きいことは明確であります。

 扉を閉めるところは閉める必要がありますし、宿泊施設が不足していて扉を開かなくてはならないところには十分な対応をとっていかなくてはならないとは思います。既存の業態との兼ね合いにあっては、時として比較対象がある場合、ユーザーの選択により、よりよいイノベーションが構築されることも時としてあります。

 また、観光県として外国人観光客倍増を目指す中にあっては、観光客同士の安全はもとより、当該地区住民の安全を考慮する際に警察機能の強化は両輪として進めていかなくてはなりません。何かあったときの対応ではなく、文化も習慣も異なった者同士のトラブルの抑止力としての観点から警察官の増員も切に願い、次の質問に移ります。

 長野県公式ウエブサイト「さわやか信州旅.net」に掲載されている草競馬大会は5月の下旬に開催されております。大町観光草競馬大会と、8月初旬に塩尻で開催されております高ボッチ高原観光草競馬大会、9月の下旬には安曇野観光草競馬大会、そして、11月3日、文化の日に行われる佐久市望月駒の里草競馬大会の四つの草競馬大会が時期もおのおので開催されております。

 はるか昔、文武天皇即位4年の令により、全国に朝廷に献上する牛馬を飼育するための牧が定められ、これを御牧と呼び、全国で32カ所の牧が置かれましたが、その中でも信濃は16カ所と大変多く、歴史も深いわけであります。

 時は流れ、今は、遺伝子の最高傑作とも言われるサラブレッドを見ることができる草競馬大会が県内で開催されていることは大変貴重なことであると考えております。

 また、健康面でも、馬肉はすぐれた食材であり、馬刺しでも、焼いても煮てもおいしく調理ができることや、飯田市を中心とした郷土食として有名な「おたぐり」として愛されている現状もあります。ちなみに、私は昨日いただく機会がありましたが、これがやはりうまいわけです。

 また、皮や脂は2次利用ができ、新たな産業と雇用の創出へとつながる可能性を含んでいます。

 このように、常に私たちの生活の近くにあった馬、それについて、畜産の新たな切り口としての可能性について本県としての展望はあるのか。農政部長にお伺いいたします。

 また、福島県相馬市では、相馬野馬追というお祭りで甲冑武者が馬に乗る姿があります。ことしの佐久市駒の里草競馬大会において、震災の被災地交流の一環も含んだ取り組みとして、その甲冑武者が馬を駆る姿に私自身感動していました。

 昨今の戦国ブームで需要が高まる我が県として、観光や交流人口の創出としてメーンを張れるイベントであると思うのですが、その可能性について観光部長にお伺いいたします。

  

◎農政部長(北原富裕)

 

 馬肉生産による畜産振興についてのお尋ねでございますが、我が国の馬肉の消費量は平成25年で9,903トンとなっております。このうち国内生産の割合は55%、5,465トンでありまして、熊本県、福島県の2県で全国の約7割の生産を占めております。

 長野県におきましては778頭が飼育されておりますけれども、ほとんどが乗馬や愛玩用でありまして、現在、食用としての飼育はされておりません。

 畜産業として新たに馬肉生産を行うに当たりましては、牛や豚と同じように、一定規模の頭数による肥育管理を行う必要があり、用地の取得や施設の整備、さらには環境対策等が必要となるなど、さまざまな課題があるものと認識しております。

 また一方、地域の個性ある食材として馬肉生産を希望される方がいらっしゃる場合におきましては、県としましては飼養管理や疾病対策などについて支援をしてまいりたいというふうに考えております。

 以上でございます。

 

◎観光部長(吉沢猛)

 

 馬を資源とした観光や交流人口創出の可能性についてのお尋ねでございます。

 御質問でお話のございました相馬野馬追につきましては、東日本大震災のありました23年には開催が危ぶまれましたけれども、現在は、約500騎の騎馬武者が参加し、3日間で約20万人が訪れる勇壮な伝統行事として観光面でも意義のあるイベントになっているものと承知しております。

 また、馬関連のイベントとしては、県内におきましても、お話がありましたように、佐久市の望月駒の里草競馬大会を初め、塩尻市、安曇野市などで伝統ある大会が地域の皆様の手によって取り組まれてきております。

 馬あるいは戦国時代に注目したイベントは、来月からNHK大河ドラマの「真田丸」が放送されることもありまして、観光資源として県内外から多くの交流人口を呼び込む可能性があるものと考えているところでございます。

 県といたしましても、地元の市町村などの意向を尊重しながら、地域の皆様による取り組みに対しまして必要な支援をしてまいりたいと考えております。

 以上でございます。

 

◆花岡賢一

 

 ひつじ年の私が馬のことを語りましたけれども、確かな観光と信州の魅力の発信を切に願うのと同時に、来るべき新年に大きな期待を込めまして、一切の質問を終了させていただきます。