平成30年6月定例県議会 発言内容(山岸喜昭議員)


◆山岸喜昭

   

 順次質問に入ります。長野県の創業、事業承継支援の取り組みについて伺います。

 我が国では、経済社会構造の変化及び少子化、経営者の高齢化の進展に伴い、中小企業、小規模事業者の数は年々減少を続けております。また、高齢化や少子化により後継者不在率が6割を超えている状況にあり、これまで地域経済を支えてきた熟練技術者の不足により、ものづくり技術そのものの空洞化も深刻な問題となって市場から撤退することも見込まれ、地域の活力が失われることが懸念されます。
 こうした状況の中、新たな地域産業の担い手を創出するとともに、優良企業を次世代につなぐ創業や事業承継を促す意義は大変大きなものがあります。さらに、起業、創業は産業の新陳代謝を促進し、我が国の経済を活性化する重要な役割を持ちます。また、起業、創業も、情報化、少子・高齢化、経済のグローバル化といった環境の変化により、起業を目指す人材も減少しています。起業を活性化し、起業大国を実現するために求められる支援を明らかにしていく施策が必要と思われます。
 長野県は、潜在能力が依然として非常に高く、その豊かな地域産業資源をいかに生かし、いかに新たな活力へと転化させていくかが問われております。新たな事業の創出が重要な課題となっているのです。
 県においては、地方創生のために策定した人口定着・確かな暮らし実現総合戦略に、信州らしさを伸ばす突破策の一つとして「日本一創業しやすい県づくり」を掲げ、新しい総合5カ年計画にも引き継がれております。人材育成、大企業等からの技術移転の促進、人的資源の活用、支援拠点の整備など、スピードある新事業創出促進への総合支援体制づくりや相談窓口の設置、セミナー、イベントの開催、制度資金の充実など積極的に取り組まれていることは存じておりますが、本県の開業率は、全国平均を大きく下回り全国39位と低迷し、事業承継においても課題が多いと聞いております。
 また、女性の起業希望者も増加しているが、多くの困難に直面し、起業を希望していても、実際に起業まで至る割合は低い。また、60歳以上の割合は年々高まる一方、退職後も何らかの形で働き続けたいと希望する者も多く、起業への動機が明確であり、その意欲は高いとされております。総合5カ年計画、しあわせ信州創造プラン2.0の重点政策の「産業の生産性が高い県づくり」の中で、スタートアップ支援や事業承継の取り組みを推進するとしており、プラン等も踏まえ、これまで以上に創業や事業承継の支援を強化し、取り組むべきと考えます。
 そこで、本県の創業や事業承継の現状と課題をどのように捉えているのか。県内経済の活力を高めるため、創業を志す若者の育成と創業希望者が創業しやすい環境づくりが必要であると思うが、今後どのような施策をしていくのか。また、後継者不足から県内中小企業の廃業が進み、企業が有するすぐれた技術や人材など経営資源の喪失が懸念されることから、県を挙げて事業承継に取り組む必要があると思うが、今後どのような施策を展開していくのか、産業労働部長にお聞きします。
      

◎産業政策監兼産業労働部長(内田雅啓)

 

 いただきました3点の御質問に順次お答えさせていただきます。
 まず、創業及び事業承継の現状と課題についてでございます。
 創業の現状でございますが、本県の開業率は、平成24年度の3.32%から、平成28年度には3.61%と上昇しているものの、議員御指摘のとおり、順位は全国39位となってございます。また、平成24年度に事業を開始いたしましたワンストップ創業相談窓口であるところのながの創業サポートオフィスの相談件数や利用者の創業数、制度資金の利用状況などは、この6年間でいずれも2倍から5倍にふえてきております。
 創業に関する課題といたしましては、創業希望者がまだまだ少ないことですとか、飲食や理美容といったサービス業以外の創業が少ないこと、それから創業から5年以内に廃業する者が多いことなどが挙げられます。
 事業承継の現状でございますが、ここ数年、後継者不在率が6割を超え、高い水準にあることに加えまして、県事業引継ぎ支援センターへの相談件数は延べ2,000件あるわけでございますが、それに対しましてマッチング件数は294件、成約件数は47件と少ない状況にございます。事業承継の課題といたしましては、多くの経営者が事業承継問題を早期に認識していないこと、事業引き受け希望者が少なく、事業承継の課題に対応できる専門人材等も不足していることなどが挙げられます。
 次に、今後の創業支援施策についてでございます。
 創業を志す若者の育成といたしましては、県内の中学校、高校に対しまして、起業家教育の実践事例集を作成、配布するとともに、県教育委員会と連携いたしまして学校の授業に活用してもらうなど、若年段階からの意識啓発を行ってまいります。また、4月に開学した長野県立大学や県内に約30ございますコワーキングスペース等と連携したセミナーやイベントの開催により、若者、女性などの創業支援に取り組んでまいります。
 創業しやすい環境づくりといたしましては、創業希望者や県内企業、投資家等がオープンな交流を行うことによる新たなビジネスの創出や専門家による伴走型支援、起業家育成を行う創業支援拠点の形成などにより、企業や大学、支援機関などが関与し、絶え間なく創業者が生まれ育つベンチャーエコシステムを構築いたしまして創業を促進するよう取り組みを進めてまいります。
 最後に、事業承継の今後の取り組みについてでございます。
 御指摘のとおり、県内中小企業の廃業増加により地域経済の活力が奪われるおそれがあることから、事業承継の課題に積極的に取り組む必要があると認識をしております。このため、国の制度を活用し、県内の産業支援機関、地域金融機関、弁護士や税理士などの専門家等と協力をいたしまして、事業承継を一層促進していくための事業承継ネットワークをこの6月20日に立ち上げたところでございます。このネットワークでは、経営者に対する事業承継診断を実施いたしまして早期の気づきを促すとともに、研修やセミナーの開催による専門人材等の育成や引き受け希望者の掘り起こしを行い、マッチング機会をふやしてまいります。今後は、これら関係機関が一層連携を深め、準備段階から承継後まで切れ目ない支援を行うことで円滑な事業承継を促進し、成果につなげてまいりたいと考えております。
 以上でございます。
      

◆山岸喜昭

 

 次に、長野県の高等教育についてお伺いいたします。
 グローバルな視野を持ってイノベーションを創出し、地域のリーダーとなる人材を育成する長野県立大学が開学しました。長野県を源とする新しい流れを起こそうと新設され、三つの理念、リーダー輩出、地域イノベーション、グローバル発信が大学の使命であり、若者が長野県で学び、グローバルな視野を養い、人材を育てる役割が大学に期待されています。これまで、長野県の高校生は、県外の大学に進学する流出率が高いことが課題とされる中、長野県立大学が開学されたことで、県内高校生の進路を決める上では新たな選択肢となりました。これまで、県内の大学にとどまるのは1,500人程度で、首都圏への大学進学は2,200人という状況であります。
 新設長野県立大学においては、1期生の入学者状況は、男子が70人、女子が177人で定員を上回る247人であり、グローバルマネジメント学科が175人、健康発達学部の食健康学科が31人、こども学科が41人であります。このうち、本県の高校出身者は143人で58%を占めています。管理栄養士を養成する食健康学科は全国でも限られ、近隣県に同様な学部が少ないため注目が集まりました。幼稚園教諭等を育成するこども学科は、卒業後、県内就職を希望する学生が多いことから、県内出身の入学者が多く見られます。一般的に、都道府県立大学の入学者の地元占有率はおおむね5から6割と言われており、その数値からすると、長野県立大学は、今年度におきましてはほぼ平均的数値であると言えます。昨年から公立大学となった長野大学は、私立大学だった一昨年の入学者数は336人で、県出身の占有率は251人で75%を占めていましたが、公立大となった昨年度からは県外からの入学者が増加し52%となり、今年度は県出身の割合が33%と一昨年と比べると大きく減っております。
 また、今春から公立大となった諏訪東京理科大学は、一昨年の県出身者の占有率は54%、昨年は、365人の入学者のうち140人が県出身者で占有率が38.4%とし、公立大となった今年度の入学者は342人、このうち県出身者は91人と、占有率は26.6%と大幅に減っております。長野大学と同様、今後さらに県内出身の学生が毎年減ることが予想されます。
 また、信州大学の県内出身の占有率につきましては、学部ごとに違いはあるが、8学部合計の占有率は25.1%であります。ここ10年間では、昨年の24.5%に次ぐ低さであります。また、本県の牙城とも言われている教育学部も占有率が40%となっております。このことから、県内の高校から県外の大学に進学する流出率が高いことが課題とされる中、県立大は、県内高校生の進路に新たな選択肢となりました。長野県では、新たな4年制大学や公立大学が開学したが、高校生の進路選択にとってどのような影響があったか、教育長にお伺いします。
 国公立大学の人気を背景に県外からの優秀な受験生が増加したと見られるが、一方で、地方自治体は、公立化することで若者の県外流出を防ぐ受け皿として地元大学に大いに期待をしております。
 総合5カ年計画には、総合的に展開する重点政策の一つとして、郷学郷就の産業人材育成確保が位置づけられています。県内高校の卒業生が県内大学で学び、地元で就職できるようにするため、県としてどのように取り組んでいくのか。新設された県立大学には、地域に貢献できるリーダーの育成が望まれるが、そのために教職員や学生へ期待することは何か。
 以上、県民文化部長にお聞きします。
      

◎教育長(原山隆一)

 

 県内大学への進学の状況についてのお尋ねでございます。
 県内の公立高校の昨年度卒業者のうち、新たな4年制大学である長野県立大学と公立化された長野大学、公立諏訪東京理科大学を含む県内大学への進学者は前年度に比べ140人程度増加したことから、進路選択の多様化に寄与したものというふうに考えております。
 一方、議員御指摘のとおり、県内の高校からの進学者は、長野県立大学では6割近くを占めた一方で、公立化した2大学では県外からの進学者が増加したため減少したという事実がございます。今後は、大学を志望する生徒に公立化や学部の新設による魅力の向上など県内大学の情報を適切に提供した上で、生徒の思いを実現できるような学習支援に努めてまいりたいというふうに考えております。
      

◎県民文化部長(角田道夫)

 

 2点御質問いただきました。
 まず、県内高校の卒業生が県内大学で学び、地元へ就職できるようにするための県の取り組みについてでございます。
 県内高校の卒業生が県内大学で学んでもらうための取り組みとしては、大学の魅力についてSNSを活用した情報発信を行うとともに、県内の大学で構成する高等教育コンソーシアム信州と連携し、テレビCM放映などを実施しているところでございます。今後は、これらの取り組みに加えまして、県内で学ぶメリットをPRするパンフレットを県内高校2年生全員に直接届けるとともに、大学と高校の連携をこれまで以上に推進し、高校生が大学の入門的科目を学ぶ夏季集中講座など新たな取り組みを進めることにより、県内高校生にとって県内大学が身近で有力な選択肢となるよう努めてまいります。
 次に、県内大学の学生が県内に定着してもらうための取り組みについてです。
 大学と産業界の御協力のもと、県内中小企業を中心にインターンシップのマッチングや県内企業の海外事業所でのインターンシップの支援を行っているところでございます。また、県内企業の情報等を集約したポータルサイト、シューカツNAGANOによる発信やジョブカフェ信州による就職活動の支援を行い、県内企業と県内学生等を結びつける取り組みを進めております。今後、これらの取り組みをさらに充実させ、県内の大学や企業の魅力をより多くの高校生、大学生に伝えることで、信州で学び、働き続けたいという若者を1人でも多くふやせるよう、教育委員会、産業労働部と連携して取り組んでまいります。
 次に、県立大学の教職員や学生に期待することについてでございます。
 4月に開学いたしました長野県立大学では、長野から世界へこぎ出すたくましい若きリーダーを育てるべく、少人数での発信力ゼミや企業経営者などを招いて自身の将来を議論する象山学など多種多様なカリキュラムとともに、社会的起業支援の中核としてのソーシャル・イノベーション創出センターなど、日本でも有数の学びの場を準備して学生を迎えました。県内外から招聘した七十余名の教員、そして、事務局職員には、そうした多様な学びを提供する際に、大学が掲げるリーダー輩出、地域イノベーション、グローバル発信という三つの理念を常に意識しながら学生の潜在能力を引き出す教育を実践していただきたいというように考えております。
 また、学生には、恵まれた環境や教育カリキュラムを当然のこととせず、教育県から学習県へ生まれ変わろうとしている信州において、主体的に学ぶという姿勢、そして新たな道を切り開くという高い志を持ち続けながら学生生活を送ってほしいと願っております。
 英語集中プログラムや海外プログラムでグローバルな視野を身につけるとともに、本県の歴史や文化を学習する信州学の授業等を通して地元愛を醸成しつつ、信州に軸足を置きながら世界に挑戦する若者が1人でも多く輩出されることを期待しております。
      

◆山岸喜昭

 

 せっかく地元に優秀な大学があっても、地元に良質な雇用がなければ意味がないわけであります。地元に能力を生かせる企業があれば、そのまま就職、また、郷就してくれる可能性が高いわけであります。
 来春卒業予定の大学生のアンケートでは、出身の都道府県にUターン就職を希望する割合が33.8%と低迷しています。大都市圏での就職が人気を集めています。起業・創業支援や郷学郷就を進め、さらなる県内の若者の人材育成を願い、質問を終わります。