平成30年2月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

 

 それでは、早速質問に入りたいと思いますが、その前に、こたびの平昌オリンピックにおきましては、小平奈緒選手の目覚ましい活躍を初め、長野県にゆかりのある選手の皆さんが死力を尽くして戦いました。心よりその健闘をたたえたいと思います。

 私の地元、南相木村においても、菊池彩花選手がスピードスケート団体追い抜き戦、女子パシュートにおいて見事に金メダルを獲得し、人口約1,000人の小さな村が大変盛り上がっております。
 一昨年の8月、彼女は、練習中の転倒によりスケートの刃が右ふくらはぎを20センチも切り裂くという大けがを負いました。そして、筋肉や血管だけでなく、腱や神経まで断裂してしまいました。ところが、選手生命を絶望視される中、持ち前の強靭な精神力でリハビリや練習を重ね、ついに悲願の金メダルを手にしたわけであります。レース中は、幼いころから近所で頑張っていた彼女の姿が走馬灯のようによみがえり、金メダルが確定した瞬間には、私も涙があふれて仕方ありませんでした。よって、菊池彩花選手にもぜひ県民栄誉賞を授与していただきたい。そのことを強く要望させていただきまして、質問に入りたいと思います。
 平成23年6月の一般質問で、私は、農水省が策定した林業再生プランに触れました。その中で、国からの補助金は間伐材の搬出分野に集約化されてしまい、逆に下刈り、つる切り、枝打ち、雪起こし、除伐、間伐といった保育分野への補助が弱体化することを指摘し、さらには森林税の活用も提案いたしました。
 例えば、今回の当初予算において、苗不足に対応した林業種苗生産拡大対策事業等も計上されておりますが、現場サイドからは、今後の森林資源の循環利用を見据え、再造林や保育への支援を充実していただきたいという声を多く聞きます。こういった植栽木を植えて育てるための保育作業への森林づくり県民税による支援について、林務部長の御所見をお伺いいたします。
 次に、災害に強い森林づくりですが、それには、まず、しっかりと大地に根の張った樹木を育てることが重要です。これについては、元信州大学農学部教授の山寺喜成先生が直根苗木の重要性を訴え、栽培と啓蒙普及に力を傾注しておられます。
 私は、昨年2月定例会において、森林認証など、単に外国から指図されるだけでなく、山寺先生の研究などをもとに、日本独自の防災、減災に特化した認証制度を確立し、世界をリードするぐらいの気概を持つべきだと訴えました。また、垣内議員や宮本議員も、山寺先生の研究成果と活用について過去に触れられております。
 山寺先生いわく、樹木には地球の中心に向かって真っすぐに伸びる太い根っこ、いわゆる直根がある。これによって、樹高が高くなっても重量を支えることができる。ところが、これまでの苗木づくりの多くは、直根を切って細かい根を密生させている。これにより、確かに活着率は高まるが、逆に風に対する抵抗力は著しく低下する。また、細かい根が密生すると生育領域が狭くなるため、成長が早期に衰え始め、寿命も短くなる。つまり、極めて脆弱な森林になってしまうとのことであります。
 この話をお聞きしたときに、私もいろいろと合点がいきました。過去において、災害でカラマツなどが倒れた哀れな姿を何度も見ましたが、直根、これは南佐久のほうでは芯根とも呼びますが、倒れた樹木の多くは、確かにこの直根がなく、細く短い根っこばかりでした。また、伐採した木の根っこを重機で掘り起こしてみるとよくわかるのですが、直根のある根っ子は大地に深く食らいついているために、掘り出すのに何倍も時間がかかります。
 そこで、私は、昨年、地元の木材業者とともに山寺先生の自宅を訪問し、直根苗木を養成する作業場を視察させていただきました。そこには、独自に配合した培養土でつくった土壌ブロックにさまざまな樹種の苗木が育っておりました。また、近隣の急傾斜地で試験的に植林したその成果もお聞きいたしました。山寺先生は、せっかく苦労して植林するのだから、災害を誘発するような弱い森林ではなく、災害を防ぎ、人々の生命と財産と経済を守るための森林づくりをしなければならない。これが森林づくりの神髄であるとおっしゃいました。
 林務部の関係者の中には、山寺先生との交流もあり、その森林哲学を理解している方もおられるとのことでしたが、県の林業施策の中において、このような災害に強い苗を含め、どのように苗木を活用していくお考えでしょうか。
 また、こういった災害に強い森林づくりに適した苗木は、急傾斜地等において、森林の強化、再生を図る治山工事等に対して積極的に活用すべきだと考えます。
 さらには、このような苗木も活用しながら、地域ぐるみで災害に強い森林づくりを行っていくことに対しても森林づくり県民税を活用できないものかと思うわけですが、それぞれ林務部長の御見解をお聞かせください。
      

◎林務部長(山﨑明)

 

 4点お尋ねいただきました。
 初めに、森林づくり県民税を活用した植栽等の保育作業への支援についてのお尋ねでございます。
 森林づくり県民税は、看過できない森林の課題に対して、時限を区切り、県民の皆様の御負担のもとで対応させていただいているところでございます。県内には、そのピークを過ぎたとはいえ、間伐等の手入れが必要な森林がいまだ多くあり、この解消がまずは重要と考えております。
 一方、主伐後の再造林等に対する支援につきましては、主伐が本格化する前に、伐採から再造林までを一体として行う一貫作業システムの定着が肝要と考えており、この取り組みを推進しているところでございます。
 議員御指摘の森林づくり県民税の活用事業案においては、地域と里山のつながりを再生する観点から、住民協働型の里山整備において、間伐のみならず、植栽や保育などを含めた幅広い整備に地域ぐるみで対応できるよう見直しを行ったところであります。
 次に、直根苗木の活用方法についてのお尋ねです。
 樹木の根は、森林の成長の基盤であるとともに、土壌に広がる根は、地盤を支え、山崩れなどの災害を防止する効果があることから、林業用苗木については、現場に適した樹種を見きわめ、根の働きを十分発揮させることが重要と考えています。
 現在、林業用苗木については、従来型の裸苗や、近年普及が進みつつあるコンテナ苗、議員御指摘の直根苗など、根の形状等が異なるさまざまな種類があり、それぞれに価格、扱いやすさ等の長所、短所がございます。このため、目指す森林の姿を念頭に置きつつ、現場の条件等に応じて適切な苗木を選択し、活用していくことが重要であると考えております。
 続きまして、災害に強い森林づくりへの活用についてのお尋ねでございます。
 急傾斜地や山腹崩壊地など早期の安定化が必要な箇所においては、良好な根を速やかに成長させることができる苗木が求められるため、議員御指摘の直根苗の活用は有効な手法の一つと考えています。なお、県内では、既に崩壊地を復旧する山腹工や治山施設周辺の森林造成等で活用しております。
 治山事業においては、道路からの距離や地質、土壌など現場条件がさまざまであるため、引き続き、効果的な苗木の選択を含め、森林の防災・減災機能を発揮させるための災害に強い森林づくりを積極的に推進してまいります。
 最後に、地域ぐるみで災害に強い森林づくりを行っていくことに対しても森林づくり県民税を活用できないかとのお尋ねでございます。
 冒頭お答えいたしましたが、松くい虫被害跡地などで災害に強い森林づくりに適した苗木を活用し、地域ぐるみで森林の再生を進めることは、地域の一体感を高め、住民と森林との関係を再構築し、森林管理の空洞化対策や住民の防災意識の向上にも資する重要な取り組みと認識しております。このため、次期森林づくり県民税事業案では、議員の御指摘も踏まえ、ただいま申し上げました観点から、災害に強い森林づくりを目指し、住民が協働で植栽を行うなど里山を再生していく取り組みも支援対象としたところであり、御提案の苗木の活用も含め、地域の主体的な森林づくりがより広がるよう取り組んでまいります。
 以上でございます。
      

◆依田明善

 

 次に、流木の被害についてお尋ねいたします。
 江戸幕府8代将軍徳川吉宗の時代、1742年8月、千曲川及び犀川の流域において台風による豪雨災害が発生いたしました。いわゆる戌の満水でありますが、この未曽有の災害によって、実に2,800人以上の犠牲者が出てしまいました。
 しかしながら、この災害は、276年前の遠い昔の悲劇として片づけるわけにはいきません。むしろ異常気象は年々深刻化しております。
 そんな中、近年、特に指摘されているのが、河川内に生い茂る樹木の危険性であります。また、整備のおくれている森林などでは、暴風に耐えられない樹木が倒れ、そこに大量の水がたまります。こうしてせきとめられた箇所が決壊した場合、戌の満水のときもそうですが、各所で洪水が発生いたします。そんなこともあり、建設部においては、土石流発生時の流木対策として57億円ほどの予算が計上されておりますし、県単河畔林整備事業として1億1,250万円が計上されております。ただし、工事箇所につきましては限定されたものであり、県内の問題箇所全てに対応できるわけではありません。
 そこで、戌の満水の悲劇を二度と起こさないためにも、河川内の樹木処理などを地域住民などと協力しながら行う必要があると思います。中には、まきストーブに使うまきを確保したい方も多いと思いますが、こういった地域の取り組みに対しても森林税が大いに活用されるべきだと考えますが、建設部長の御見解をお伺いいたします。
 次に、職員のモチベーションなどについて触れたいと思います。
 大北森林組合の一件以来、清沢英男議員も指摘しておられるように、県職員全体が萎縮してしまい、行政が滞ることを心配する声は少なくありません。言うまでもなく、木は植物ですから、人間界の事情など関係なく、毎日成長しております。そして、その豊かな森林資源によって私たち日本人は健やかに生かされていると言っても過言ではありません。
 では、その恩恵をお金に換算した場合、果たしてどれだけの金額になるでしょうか。日本学術会議の試算によると、環境資源の機能としては、国内で年間約70兆円分の働きをしているとのことであります。温暖化防止、水源の涵養、CO2の吸収、酸素の供給、産業の活性化などは言うに及ばす、急傾斜地や水源地におきましても砂防林や保安林の働きは大きいわけであります。加えて、生物多様性を育む森林機能なども換算すれば、その恩恵たるや、はかり知れないものとなることでしょう。
 日本の林業が神聖なものとして大切にされてきた理由は、古来より、山の神という信仰があり、日本人の生命、財産を守り、経済活動やコミュニティー社会の構築に直結してきたからであります。その森林が、業務の停滞、予算不足、価格の低迷、山への無関心などにより荒れてしまった場合、一体どうなってしまうのか。例えば、信州自慢の風光明媚な景観や癒しの空間が荒れてしまえば、観光客や登山客など誰も来なくなってしまうでしょう。また、温暖化や災害多発による財政的負担、伐期を逃すことによる品質低下、仕事が減少することにより、林業関係者や木工職人、あるいは高性能機械等が本来の能力や機能を発揮できないことによる損失など、数え上げれば切りがありません。
 かつての木材の関税撤廃は中山間地の衰退を招いた大きな原因の一つですが、長野県の林業も、ようやく数十年の長い眠りから目を覚まし、若者も関心を寄せてきたわけです。もしこのチャンスを潰すようなことになれば、今後、何百億円、何千億円といった損害や損失を県民がこうむることになります。果たして、その場合の真相究明は誰が行い、誰が責任をとるのでしょうか。
 そこで、知事にお伺いいたします。
 森林からの恩恵をこれからも県民が享受するには、林務部、森林組合、素材生産業者、自伐林家など山の専門家が、明るく前向きに営々と森林を育て、整備をしていかなければなりません。個々の問題については、業務改善を徹底し、再発を防止することが今後の最重要課題ですが、予算措置も含めて、林業施策へのてこ入れは決して緩めないでいただきたい。そのことを強く要望いたします。
 長野県の林業を大局的にどう捉え、どう推進させていくのか、最後に知事の決意をお伺いし、一切の質問とさせていただきます。
      

◎建設部長(油井均)

 

 河川内の支障木処理についてのお尋ねでございます。
 1級河川区域内の支障木除去については、従前から県単独河川維持費で対応しており、河川に隣接した民地及び準用河川の除間伐については、防災、減災の観点から、新たに森林づくり県民税を用いた河畔林整備事業で行うこととしております。
 河川区域内の支障木除去については、河川愛護会の皆様にも御協力いただくとともに、伐採木は住民の皆様に配布する取り組みを行っております。また、まきを確保したい方々がみずから支障木を伐採して御利用いただける公募型伐採にも積極的に取り組んでおります。これらの取り組みをさらに進め、支障木除去と伐採木の活用を図ってまいります。
 なお、森林づくり県民税を用いる準用河川での除間伐につきましても、伐採木の有効活用が図られるよう市町村に求めてまいります。
      

◎知事(阿部守一)

 

 本県の今後の林業の推進についての御質問でございます。
 森林あるいは林業政策が長野県において果たしている役割は大変大きなものがあるというふうに思っております。そういう意味で、林務部、そして森林・林業関係者の皆様方には、これからも長野県の森林の保全、森林の活用、そして多面的な公益性の保持、そうしたさまざまな側面での役割をしっかり果たしていただければありがたいというふうに思っております。林務部職員には、萎縮することなく、前向きに胸を張って取り組んでいくように私から伝えているところでございます。
 こうした中、次期総合5カ年計画の案におきましては、本県の強みであります森林資源を最大限に活用して収益性と創造性が高い林業を実現していくため、ICT等を活用したスマート林業の推進、あるいはオーストリアなど林業先進国からの技術導入等を進めることとしています。
 また、県民の皆様方に身近な森林であります里山につきましては、森林と人、森林と地域とのつながりを再生、創造して、自立的、持続的な森林管理体制を構築していきたいと考えています。
 こうした観点で、森林づくり県民税も活用させていただきながら、地域住民の皆さんによる里山の保全、木材生産のみならず、観光や教育など多様な県民ニーズに応えた森林の利活用を進めていきたいというふうに思っております。
 このように、本県としては、今後とも、積極的に森林・林業政策を進めてまいります。林務部の職員には、こうした取り組みの先頭に立っていただき、そして、森林組合、素材生産業者、自伐林家初め、森林・林業関係者の力を結集して、長野県の森林・林業を未来に向けて明るく発展させていきたいというふうに思っております。
 以上です。