平成28年11月定例県議会 発言内容(埋橋茂人議員)


◆埋橋茂人

   

 まず、TPPについて知事に伺います。

 米国でトランプ氏が次期大統領に選出され、また、上下両院の選挙結果により、TPPの発効はほとんど困難になったと考えますが、県内への影響や対応方針について伺います。

 長野県経済への影響をどのように想定しているのか伺います。また、今後の対応についてはどのような方針で臨むのかお聞かせをいただきたいと思います。

 二つとして、国の地方創生策はTPP発効を前提としており、その対策の意味合いもあったと認識していますが、発効しないことにより信州創生戦略にどのような影響があり、所要の見直しが必要かどうか、お答えをいただきたいと思います。

 三つとして、県内農業への影響はどのようなものか、どんなふうに考えているのか、お示しをいただきたいと思います。 

     

◎知事(阿部守一)

 

 3点、TPPに関連しての御質問をいただきました。

 まず、トランプ大統領選出による影響と対応ということでありますが、まだトランプ氏はアメリカ大統領に就任していないわけでありますが、大統領選の結果が出ただけで日経平均が上昇し、為替相場もどんどん円安に振れてきているということで、経済指標は大変大きく動いてきたわけであります。そういう意味で、今後、TPPへの影響も含めて具体的な政策がどうなるかということについてはなかなか見通すということは難しい状況だというふうに思っております。今後とも、TPPに関する政府あるいはアメリカの動向、また協定参加国の情勢を注視してまいります。関係機関と連携を密にして情報収集に努め、その都度、適切な対応を行っていきたいと思います。

 それから、発効しない場合の信州創生戦略への影響という御質問でございます。

 信州創生戦略には、農産物や工業製品の輸出促進、あるいは県内農業の体質強化、こうしたものを盛り込ませていただいております。これらは、信州創生戦略の基本方針、活力と循環の信州経済の創出という方針に沿って県内産業の稼ぐ力を高めていこうというための取り組みとして位置づけております。そういう意味で、TPPの発効いかんにかかわらず、こうした政策の方向性自体を変える考えはございません。

 県内農業への影響についてということでございます。

 TPPが発効した場合、国内対策を前提として、県内農林業への影響は、大筋合意の内容を基本としますと生産額で24億円余の減少という試算を2月に行ったところであります。協定が発効されない場合は、協定による生産額の減少等は見込まれないわけでありますが、他方で、農産物の輸出等への影響はあり得るものというふうに考えます。今後とも、本県農業が持続的に発展することができますよう、農業の体質強化、輸出拡大等に取り組んでいきたいと考えております。

 以上です。

      

◆埋橋茂人

 

 続きまして、米国の大統領選と符節を合わせるように、農協改革について、安倍首相肝入りの政府の規制改革推進会議農業ワーキンググループから、11月7日、攻めの農業の実現に向けた農協改革の方針が出されました。続いて、米国の大統領選を挟んで11月11日に、同会議と「ローカルアベノミクスの深化」会合との連名で、「総合的なTPP関連政策大綱に基づく「生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し」及び「生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立」に向けた施策の具体化の方向」が示されました。

 前提であるTPPの発効が困難になったにもかかわらず、以後も農協改革についてさまざまな論議が行われています。与党会議で削除や修正が行われている点もあり、また詳細が不明な部分もありますが、論議の中心になっている全農にかかわる提言の基本的な趣旨は変わっていないと認識しておりますので、それをベースに質問いたします。

 まず、知事に伺います。

 中曽根内閣の玉木総務相のとき以来かと思いますが、農業協同組合という民間の事業体の事業、組織の根幹に触れる提言を政府の規制改革推進会議が行うことは適切だと考えているのか伺います。

 二つ目に、農協の基本事業であります販売、購買、信用事業に対する提言について県としてどのように考えているかお聞かせをいただきたいと思います。

      

◎知事(阿部守一)

 

 農協改革についての御質問でございます。

 まず、規制改革推進会議の提言についてでございます。

 規制改革推進会議は、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制のあり方の改革に関する基本的事項を調査、審議し意見を述べるということにされております。そういう観点で、今回の提言は、農業協同組合法に規定された組織に対してなされたものというふうに受けとめております。

 11月29日に国が決定した農林水産業・地域の活力創造プランの改訂において加えられましたさらなる農業の競争力強化のための改革、これは規制改革推進会議農業ワーキンググループの提言に対する農業団体等の意見も考慮された内容となったものというふうに受けとめています。この改革方針が、農業者の所得向上や農業・農村の持続的発展につながるものとなるよう、強く望むものであります。

 農協の販売、購買、信用事業に対する提言についてでございます。

 販売、購買、信用事業、これは営農指導事業とともに農協経営の根幹にかかわる協同事業だというふうに考えております。政府の農業改革方針におきましては、全農の購買、販売事業の見直しが示されております。販売事業の見直しに関しましては、日持ちのしない野菜や果実を買い取り販売することが果たして可能なのか。買い取り販売への転換は、リスク回避による買い取り価格の低下を招き、生産者の手取り価格の低下につながるのではないか。こうした懸念の声があるということも承知をしております。

 県としては、国の改革方針の具体的な動きを注視しつつ、JA長野県グループが進めていらっしゃる自己改革あるいは総合的な事業展開が、農業者の所得増大、あるいは本県農業の振興、地域の活性化につながっていくことを期待をしているところでございます。

 以上です。

      

◆埋橋茂人

 

 後段部分は適切な御回答をいただいたというふうに思います。

 続いて、農政部長に伺います。

 今回の提言は、JAの歴史や機能、地域社会での役割を無視した上、改革の進捗管理を国が行うなど、組織自治に介入し、法律的にも極めて問題の多いものであります。また、事業改革については、改革が必要な事項がある一方で、実態を踏まえない暴論に等しいものが多く、まことに残念です。今、知事からも適切な分析をいただいたわけでありますけれども、以下、例を挙げて質問いたします。

 全農の販売事業の買い取り化が提言されています。JAは、農産物の販売に当たっては、数量や品質、時期等を勘案しながら、宅配便や直売所での販売、実需者への直接販売か全農長野への委託販売かを選択しており、販売方法の選択権はJAにおいて確保されております。また、販売品の全農による全量買い取り販売となれば、卸や市場は無用となります。卸売にかかわる仕組みや市場法を改定して新たな業界構造を確立するとし、全農に価格形成機能、需給調整機能を主体的に担うように提言しています。

 しかし、かつて国が米の全量管理をしていた食糧管理法の時代でも、膨大な経費と食糧事務所や統計事務所に多くの要員を配置して業務に当たっていましたが、需給調整や自主流通米時代の価格形成は困難をきわめました。私も二十数年携わっておりましたので、本当に痛感をしているところでございます。国家がやって十分にできなかったことを、民間の全農がやることは不可能ですし、新たな独占をつくるという意味でやってはならないことだと考えております。

 また、先ほど知事も触れられましたが、鮮度が命の青果物に至っては、多様な流通形態や輸入品が膨大に存在する中で、公正な価格形成ができるか甚だ疑問です。加えて、買い取り販売においては、販売先確保や買い取り資金、保管施設、在庫等の経費も増加し、リスクは委託販売より格段に高くなることは必至であります。リスクをヘッジするためには、買い取り価格を低くせざるを得ず、委託販売より農家の手取りが高くなるとは限らず、むしろ低くなることが想定されます。

 現に、買い取り販売の対象とされている米についての全量買い取りを実施している県は6県のみであります。余り大きな生産県ではございません。多くは、集荷量や集荷率が低い、すなわち農家、JAが直売をしている比率が高いという県ですが、その残りを買い取り、学校給食等確実な販売先を確保した上で実施しているのが実態であります。

 全農長野県本部によれば、長野県産米においても、特定の大口取引先との間で、現在極めて少量の100トンだそうでありますが、買い取りによる販売を行っており、今後も、大口取引先との間で一定量は買い取り販売も計画しているが、委託販売による共同計算が大宗であることに変わりないとのことであります。農産物の価格形成と需給調整機能をどの機関がどのような仕組みで行うべきと考えているか、県の考え方をお伺いします。

 また、大手量販店の仕入れ力が圧倒的に強い中で、量販店の優越的地位の濫用について規制するとしています。そのことは了といたしますが、現在、青果店、米穀店等の専門店が激減しております。食料の購入先として国民生活に不可欠な量販店に対して実効性のある対策となるか、甚だ疑問であります。

 量販店と小売店のすみ分けは必要ですが、量販店のチラシに対応して事前に量と値段を決めておく予約相対取引というものがございます。それを実施して安定販売を図り、生産者手取りの平準化と売り場確保に努めているのが現状です。そのことが消費者の利益にも資しているというふうに思っております。買い取り販売をバイイングパワーへの対抗手段とすることは実効性に乏しいと言わざるを得ません。県としては、量販店との取引について、県産農産物の生産販売促進の立場からどのようにお考えか、伺います。

 三つ目として、肥料等の購買事業をコンサルタント機能に特化した新組織に転換し、事業をメーカー等に譲渡するよう提言されています。与党案では、共同購入が復活するなどトーンが下がったものの、この提言が今回の全農改革の狙いどころ、肝だと思われます。三菱商事や三井物産のような商社に、資材の取り扱い業務をやめてメーカーに事業譲渡せよと言っているのに等しい話でございます。あり得べからざる話だと思います。

 資材の共同購入は農協の原点です。長野県の農協連合会の発祥は、大正2年(1913年)に信用組合連合会と同年に肥料の共同購入から始まった購買組合連合会です。生産資材、とりわけ肥料の購入資金の確保と価格交渉力と共同購入による仕入れメリットを求めて連合会を組成したものであり、現在においてもその基本は変わっていません。

 また、生産資材は生産販売と表裏一体の関係にあります。例えば、県の指導を受けながら肥料の適正施用基準を定めた施肥基準や、農薬の使用基準を定めた防除暦を設け、より良質な農産物が安全につくられるよう、JAと全農県本部で取り組んでおります。生産販売と生産購買事業を別組織で行うことは極めて非効率です。別建てにすることによって、圏域の経済事業は成り立たなくなり、県と長野県JAグループとが連携して取り組んでいる県産農畜産物の生産販売に極めて大きな負の影響が出ると考えます。長野県経済、農政にも少なからぬ影響が想定されますが、どう考えているか、農政部長にお伺いします。

      

◎農政部長(北原富裕)

 

 農協改革についての御質問に順次お答えをいたします。

 初めに、農産物の価格形成と需給調整機能についてでございますが、長野県は、野菜、果樹などの園芸作物を中心に、多岐にわたる農産物の総合供給産地であり、夏場のレタスなどの野菜を初め、全国の消費者に対し、数量と価格の両面で安定的に供給する責任産地としての役割を担っております。

 全農長野県本部は、単位農協と連携して、長期貯蔵が難しい青果物などを、農家からの委託による市場流通の中で、産地における計画生産や鮮度保持流通の実施などにより、全国の市場での価格形成と需給調整に重要な役割を果たしているというふうに認識をしております。近年は、農産物直売所やインターネット販売など、流通・販売ルートの多様化が進んでおりますが、国産青果物の卸売市場経由率は平成25年で86%と、依然として主要な位置づけとなっております。

 国の農業改革方針で示された中間流通の合理化の推進につきましては、必要と考えますけれども、農産物の価格形成と需給調整の機能は、農家からの委託による市場流通を初め、買い取り販売など多様な流通により成り立つものというふうに考えております。

 次に、量販店との取引についてですけれども、JA長野県グループの農産物の出荷については、卸売市場を経由しての量販店との予約相対取引が増加しており、このことは、安定的な価格形成と出荷農家の所得確保に寄与しているものと認識をしております。

 もとより、国の農業改革方針で示されました量販店の優越的地位の濫用への規制は必要なものと考えますけれども、全農長野県本部が今まで培ってきた量販店を初めとする出荷先に対する価格形成、交渉機能は高いものでありまして、県産農産物の全国への安定的な供給と適正な価格形成を図る上では、量販店との取引は今後とも大きな位置づけを占めていくものというふうに認識をしております。

 最後に、購買事業の見直しによる影響についてですけれども、農業振興においては、農業者の稼ぐ力と所得向上が重要な視点であり、JAグループに対しても、営農指導と販売事業の一層の強化が求められるものと考えております。今回の国の農業改革方針でも、全農の購買事業を少数精鋭の組織に転換するなどの見直しと農産物販売事業の強化が示されているところでございます。

 一方、長野県においては、県とJA長野県営農センター、全農長野県本部、また単位農協の営農技術員が連携して営農技術の指導を行っており、技術指導に基づく肥料や農薬等の生産資材供給を全農長野県本部が担ってきた歴史がございます。このような中で、今後の国の農業改革の具体的な動きや全農の取り組み状況等を注視しつつ、JA長野県グループが進めます自己改革が本県農業の振興につながるよう、県としても連携した取り組みを進めてまいりたいというふうに考えております。

 以上でございます。

         

◆埋橋茂人

 

 御答弁をいただきました。ありがとうございました。以下は意見でございます。

 今回の提言による改革の主役は全農とされていますが、県域の経済事業は、全国に三つの形態がございます。全農と合併してそれぞれの都府県本部となった長野県を含む33都府県、経済連のまま事業を続けている北海道、愛知、静岡、鹿児島等の8道県、1県1JAを組成した沖縄、佐賀県等5県の3パターンです。

 事業量は、統合全農と、経済連・1県1JAでほぼ半々でありますが、今回の提言は、どこが対象になっているか明確ではありません。全農ということであれば、1県1JA、経済連は対象外であります。長野県は、県本部ですから提言の対象となると考えますが、このような事業形態が混在する中では非常に実効性に乏しいものと思わざるを得ません。

 続いて、医療、介護、福祉の関係で健康福祉部長にお尋ねします。

 清沢議員からもお話がありましたが、医療関係者や地域の声をお聞きする中で、介護が必要になっても住みなれた自宅で介護を受けながら生活を続けたいと希望する人が多くおられますが、そのためには、在宅医療と介護がしっかりと連携していくことが必要だと思います。

 新事業に対します質、量の市町村格差、また同一市町村内でも地域間格差が生じかねないことを担当の皆さんは大変悩んでおられます。1億総活躍、介護のための離職者ゼロと言いながら、自助、共助、公助のうち公助の制度設計が不十分なままです。しかし、事実として動き始めているので、二つお尋ねします。

 在宅で介護を進めるためには、新たな事業や在宅介護に対する住民への周知と住民の理解が大きな鍵を握っていると考えますが、住民への啓発の現状と今後の対応をどのようにお考えですか。

 また、個人情報保護法により、介護対象者の情報がなかなか共有できない状況があります。地域介護と個人情報保護についてどのようにお考えか伺います。

      

◎健康福祉部長(山本英紀)

 

 新しい総合事業や在宅介護の住民への啓発の現状と今後の対応についての御質問がございました。

 住民の方々が住みなれた地域で安心して暮らしていただくためには、医療、介護サービスの充実に加えて、提供されるサービスの種類、内容や、在宅で介護やみとりを行うことの実態を住民の方々に知っていただくことが重要であると考えております。

 平成29年4月までに全ての保険者においてサービス提供を開始する新しい総合事業についても、各保険者で開始する時期や利用できるサービス内容等の情報を広報誌に掲載するとともに、対象者に直接説明するなどの周知に努めております。

 また、地域支援事業の中の在宅医療と介護の連携を推進する事業において、介護サービスの内容や利用方法、自宅でのみとり、認知症などについての啓発が取り組み項目の一つとして位置づけられております。

 本年7月に県で実施した調査によれば、約4割の市町村でこうした取り組みを実施しております。県としては、在宅医療、介護に関する啓発の取り組みがより多くの市町村で行われるよう、関係団体等と連携しながら取り組んでまいります。

 地域介護を行う上での個人情報保護の取り扱いについてのお尋ねがございました。

 さまざまな関係者が連携して地域で包括的な在宅医療・介護サービスを提供するためには情報の共有が不可欠ですが、共有する情報の内容や目的に応じて共有する者の範囲を限定するとともに、匿名化や本人の同意を得るなどの工夫が必要と考えます。具体的には、タブレットなどを活用して日々サービス利用者の情報を共有する場合には、情報を共有する必要がある者に限定した上で本人の同意を得ることや、個別の事案を地域全体の課題として多数の関係者で議論する場合は、匿名化し個人が特定できないよう徹底するなどの対応が必要であります。

 個人情報保護法の趣旨を踏まえ、こうした取り組みを適切に行い、関係者間で介護対象者の情報を共有した上で介護サービスを提供することが高齢者を地域で支えていくためには重要と考えております。

 以上であります。