平成30年6月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

 

 それでは始めさせていただきたいと思います。

 今回は所有者不明土地についてでありますが、昨日、丸山栄一議員もこの件で御質問されました。そこで一つわかったことは、国においても、県においても、所有者不明の土地の状況を毎年調査しているわけではなく、比較するデータが極めて乏しいということであります。
 国交省においては、平成28年度に約62万筆の地籍調査を行っております。そして、この調査のやり方ですが、不動産登記簿により所有者の探索を行ったようです。それによって所在が判明しなかった土地が約20%、面積にすれば約410万ヘクタール、これが九州全土よりも広いということになり、さあ大変だということになったわけであります。ただし、もし仮に市町村や親族にも聞き取り調査を行うなどさらに深堀りの探索を行ったとすれば、所有者はより多く確定したのかもしれません。
 いずれにしましても、こういった調査は手間も費用もかかります。しかしながら、県を初め市町村においてはこういった業務をこなす人材が不足しているというのも事実です。よって、今後は司法書士や行政書士の皆様にも全面的に協力をしていただきながら、ノウハウを蓄積し、効率性も高め、定期的に行っていくべきだと思います。そうしなければ、いつごろから所有者の不明化が悪化したかなど、経年変化もわかりませんし、原因の究明もできません。そうなれば、当然有効な対策も打てないというわけであります。今のまま放置すれば、所有者不明土地、いわゆる幽霊土地は720万ヘクタールを超え、北海道に匹敵する面積に膨れ上がるなどと言われております。これは、安全保障も含め、国の存亡にもかかわる問題でありますので、国を先頭にしてしっかりと調査を行い、対策をとっていただきたいと思います。
 さて、そのような状況ではありますが、所在者が不明の場合の弊害として、公共工事が滞るという事態を挙げることができます。道路、河川、砂防等における公共事業等においては、相続登記がなされていないために大変苦労するというお話もあるわけです。問題は、それらを解決するために要する時間、費用、労力等でありますが、それらの実態につきまして建設部長にお伺いをしたいと思います。
 また、公共事業の遂行においては所有者を確定することは先決問題でありますが、この確定作業の効率を上げるためにどのような探索を行っておられるでしょうか。所有者確定作業の方法、課題、今後の改善点についてお伺いをいたします。
 次に、環境面についてですが、道を走っておりますと、地主の所有物ともごみとも区別がつかないものが大量に置いてある場合があります。景観的にもよくありませんし、衛生的にも問題でありますが、もしこの土地が所在者不明の土地の場合、環境部としてどのように対応されておられるのでしょうか。環境部長にお伺いをいたします。
      

◎建設部長(長谷川朋弘)

 

 公共事業における相続登記未了土地への対応についてのお尋ねでございます。
 相続登記未了土地を取得するためには、登記名義人の戸籍簿等から相続関係人を探索し、その当事者間で相続人を確定してもらう必要があります。相続登記が長期間行われていない場合では、相続が子や孫の代まで及ぶことから、平成29年度末現在で相続関係人が約460人となっている案件や、全国各地や海外といった遠方に所在する案件もございました。
 さらに、住民票の除票等の保存期限が5年間とされており、登記名義人や相続関係人が転居して5年以上経過している場合、転居先がわからず所在が不明になるケースがあります。こうした場合には、親戚、近所の方、地元精通者への聞き取りによる所在確認が必要となっています。このため、建設部の事業においては、10年以上の長期間が経過しても用地を取得できない案件があるなど、探索や用地交渉に多大な時間と労力を要しているところであります。
 次に、所有者を確定する作業の効率化と今後の改善点についてのお尋ねでございます。
 ただいま申し上げましたとおり、登記簿や住民票等の調査で所有者の所在が不明の場合は、親族、近所の方、地元精通者への聞き取りによる所在確認など地道な作業を行っており、探索作業の効率を上げることは難しい状況でございます。このたび成立した所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法では、市町村から固定資産課税台帳や地籍調査票などの情報提供を受けることが可能となり、探索の糸口が得られやすくなったことについては大いに歓迎しているところであります。
 一方で、公共事業を担う立場としては、さらなる制度改善に向けて、自治体が保有する各種情報と国の登記情報をシステムとして連動させることの是非や、現在は任意となっている相続登記のあり方等について引き続き国民的な議論が必要ではないかと考えているところであります。
 以上です。
      

◎環境部長(高田真由美)

 

 所有者不明の土地における不法投棄等への対応でございます。
 議員御指摘の状況が確認された場合には、まず現地調査を行いまして、放置してあるものが廃棄物に該当するかどうかということを判断いたします。そして、廃棄物と認められる場合には、一般廃棄物であれば市町村に対応を依頼し、また、産業廃棄物であれば県で対応することとなります。県で対応する場合には、まずその産業廃棄物が誰の手によって放置されたものかということを調査し、その上で、原因者に対して撤去等適正な処理を指導してまいります。また、原因者が特定できない場合には、市町村とも連携をして、定期的に当該土地の監視を行うとともに、必要に応じて周囲に囲いを設けるなど、廃棄物の飛散流出防止と新たな不法投棄防止の対策を講じてまいります。
 なお、常日ごろから、このような事態が生じないように、廃棄物監視員による監視、不法投棄監視連絡員による巡回など直接的な監視活動や、不法投棄ホットラインの設置による情報収集などを通じまして廃棄物の放置や不法投棄の防止に努めているところでございます。
 以上でございます。
      

◆依田明善

 

 さて、高度経済成長期やバブル期においては、いわゆる土地神話がありました。地価の高騰は多額の利益を生んだわけですが、そういう時代にあっては、所有権移転などの相続登記をこまめに行う人々が多かったと思います。ところが、バブル崩壊とともに土地神話も崩壊しました。しかも地方の人口減少などによって土地利用のニーズは低下し、土地を所有し活用するという意識も崩壊していったわけであります。
 国土交通省で実施している土地問題に関する国民の意識調査では、土地は預貯金や株式に比べて有利な資産かという設問に対し、「そう思う」と回答した人の割合は、調査を開始した平成5年度で61.8%でした。バブルが崩壊したにもかかわらず6割の人々が土地を最も有利な資産として認識をしていたわけであります。ところが、平成10年度以降は30%台に激減し、そのまま今日に至っております。最近では、地元の地主、あるいは故郷を離れている地主等から、土地を手放したい、寄附したいといった人々もふえているようですが、非常にゆゆしき事態だと思います。
 そんな中、国においては、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案が国会に提出され、6月6日の参議院本会議で可決、成立をいたしました。この法律は、当面、地域福利増進事業、あるいは土地収用制度の改革や不動産登記制度の運用改善を図るものでありまして、例えば公共事業等における土地収用などを円滑に行うための法律であります。したがいまして、地主をいかに探し出し、いかに所有者不明土地を減らしていくかといった趣旨とは異なります。とはいえ、この法律の施行を契機に、国民の土地所有に対する意識が高まればと期待はしております。
 なお、この特措法における所有者不明土地の定義ですが、簡単に言えば、相当な努力を払っても所有者がわからない土地ということであります。この相当な努力というのはどの程度の努力なのかということですが、具体的には、登記事項証明書の交付を請求するとか、住民票、固定資産課税台帳等の書類に記載された情報の提供を求めるとか、さらには、一定範囲の親族等に照会するといったことを指すようであります。また、不動産登記簿上の住所に連絡したんだけれども所有者が判明しなかった。こういった土地も広い意味においては所有者不明土地と呼ばれております。
 そういったことを前提としたこの特措法ですが、今国会で成立したこの法律の有用性についてどのように考えておられるでしょうか。また、県はどのような役割を国から期待され、どのような体制で臨まれるのか、企画振興部長にお伺いをいたします。
 また、相続登記などをスピーディーに行うには、地籍調査を行い、所有する面積や境界線などを明確にすることが重要であります。売買にしても、あるいは公共事業やまちづくり、あるいは災害の復旧などの点においても重要でありますし、所有者不明土地の発生を抑制するという点においても重要です。
 国の説明では、平成29年3月末の時点において、全国の面積ベースでの地籍調査の進捗率は約52%であるとのことです。その中において、都市部の進捗率は約24%、林地の進捗率は45%と低くなっております。やはり、速やかな相続登記を行うためには、地籍調査により面積や境界線を明確にすることが先決問題であり、公共事業や災害復旧の場面においても重要となってまいります。県内の地籍調査の進捗状況はどうなのか。
 また、緊急性の高い災害想定地域等では、一刻も早く地籍調査を進める必要があると思いますが、全国的にはおくれているとお聞きしております。長野県の状況はどうなのか、それぞれ農政部長にお伺いをしたいと思います。
 この地籍調査ですが、地主本人あるいは土地家屋調査士だけで解決できるとは限りません。隣接する地権者や関係者などの立ち会いも必要になってくる場合も多いわけであります。国土交通省では、平成32年度から始まる次期の第7次国土調査事業10カ年計画の策定に向け、所有者が不明な場合も含め、立ち会い等の手続の合理化、官民の境界情報の迅速な整備、新技術による測量の効率化、民間の測量成果等の有効活用、災害想定地域の優先地域での重点的な実施の促進といった事項について検討するようであります。
 この10カ年計画においては、引き続き地方公共団体と連携し、地籍調査の迅速化を図っていくとされておりますし、地籍調査の過程で得られた情報の利活用の促進についても検討していくとされております。こういった国の取り組みに対しましてどう対応されるのか、農政部長にお伺いいたします。
 最後に、根本的な質問をさせていただきます。
 この問題に大きく横たわっている原因として、家督を相続する者の自覚というものがあろうかと思います。先代の残した宅地、農地、林地を相続するということは、同時に、それらを維持管理していく、税金も払っていくという責任も生じてまいります。現代の風潮としては、なるべく身軽に、なるべく面倒なことにはかかわらず、余計なお金や労力もかけたくないといった考え方も強くなっているように感じますし、それが地籍の確定や相続登記などを鈍らせている大きな要因ではないかと私は思います。
 やはり、所有者不明土地をふやさないための長期的な取り組みとしては、子供たちへの教育が最も大切だと思います。不動産を含めた相続の仕組みを学ぶことや、おのれの財産、地域の財産、広くいえば日本の国土を守ることの大切さ、あるいは自然や環境を守る意識などを醸成する教育も必要と考えますが、教育長の御見解をお伺いいたします。
      

◎企画振興部長(小岩正貴)

 

 特別措置法についての御質問でございます。
 この特別措置法ですが、公共事業における収用手続の合理化と所有者不明土地への利用権設定の制度創設が2本の柱でございます。これによりまして、収用手続の期間短縮や利用権設定による所有者不明土地の有効活用が期待できるところでございます。
 一方で、この制度は財産権の制約にかかわるものでありますことから、知事の裁定に当たりましては、適切な補償額の算定や適正な手続が求められているところと承知をしております。県といたしましては、この法の趣旨に応えられますように、中立性、公平性の担保や職員の資質の向上など必要な体制の整備に努めてまいります。
 以上でございます。
      

◎農政部長(山本智章)

 

 地籍調査について3点御質問をいただきました。順次お答えをいたします。
 まず、県内の地籍調査の進捗状況についてですが、本県における地籍調査対象面積は、県土全体から国有林及び湖沼を除いた9,596平方キロメートルであります。このうち、平成29年度末の調査済み面積は3,697平方キロメートルで進捗率は39%となっており、都市部では40%、都市部以外の宅地では59%、林地で30%、農地で64%となっております。
 次に、県内における災害想定地域等の地籍調査の状況についてですが、国は緊急性の高い災害想定地域等を南海トラフ地震防災対策推進地域に指定されている市町村としておりますが、県では、南信州や上伊那地域等34の市町村が指定をされており、この地域の平成29年度末における地籍調査の進捗率は38%であります。県といたしましては、緊急性の高い災害想定地域等においては、防災対策や円滑な災害復旧のため、該当する市町村と連携し、優先的に進捗を図ってまいります。
 続きまして、地籍調査の迅速化と情報の利活用の促進についての県の対応ですが、国は、地籍調査事業の迅速化について、境界立ち会いの効率化や人工衛星等を活用した測量技術の導入など新たな手法により調査コストを縮減し、進捗を図ることとしております。
 県といたしましては、国の次期10カ年計画に合わせまして長野県第7次10カ年計画を策定するとともに、新たな手法の導入に向け、実施主体であります市町村の職員を対象に実務者研修会を開催するなどしてさらなる調査の進捗を図ってまいります。また、地籍調査の過程で得られた情報は、公共用地の取得などにおいて所有者不明土地の有効活用や所有者の探索に重要な情報と認識しておりまして、その利活用につきまして国の検討状況を踏まえて対応してまいります。
 以上でございます。
      

◎教育長(原山隆一)

 

 所有者不明土地をふやさないための子供たちへの教育というお尋ねでございます。
 相続に関しましては、高等学校の教科「家庭」の中で学習しておりますし、また、地域の財産や自然、環境についての学習は、小中学校の総合的な学習の時間や高等学校の信州学等でも行っているところであります。
 そして、御質問いただいております所有者不明土地のような社会的課題については、生徒自身がみずからの課題としてどうあったらいいのかということを主体的に考えていくことが必要であるというふうに思っております。生徒たちが探求的に学んでいく中で、歴史的な観点や世界はどうなっているんだろうかといったグローバルな視点を持ちながら、自分、地域、国土について総合的に考え、新たな社会を創造する一員としてさまざまな社会課題に挑んでいくことが重要だというふうに思っております。
      

◆依田明善

 

 それぞれ御答弁をいただきました。
 人類の歴史は、お互いの領土や農地をめぐって血や汗を流してきたという歴史でもあります。しかし、現代においては、土地の魅力は低下しておりますし、熱い思いというものはなかなか湧いてこないのかもしれません。ただし、土地というものは、果実を生み出すという普遍的な役割と特性があります。商売をやればもうかる、農業や林業をやればもうかる、そうなれば家督を相続する人々も含め、多くの人々が土地所有に責任と魅力を感じることができると思います。ぜひとも、そんな世の中になるよう、県政をさらに推進していただくことをお願い申し上げまして、一切の質問とさせていただきます。