平成28年2月定例県議会 発言内容(依田明善議員)


◆依田明善

   

 中山間地の活性化について順次御質問をさせていただきたいと思います。

 全国各地の中山間地が元気になれば、この国の農業振興はもちろんのこと、日本国民としての知性や教養も高まり、日本の原風景を磨き上げることによって、外国人観光客のさらなる誘致にもつながる。大げさかもしれませんが、私はそう信じております。

 中山間地の占める割合は、日本の国土の実に7割、耕地面積だけを見ても全体の4割を占めております。ところが、今現在、この地域には日本の人口のたった1割しか住んでおりません。しかも、今後ますます人口減少は続き、消滅するおそれを指摘されている自治体もあります。そして、この地方の疲弊は、やがて都会の疲弊を招き、日本全体の崩壊をも招きかねない事態も予想できるわけであります。

 では、そうさせないために国は何をやるべきなのか。その議論の中から生まれてきた施策の一つが中山間地域農業直接支払事業ではないでしょうか。きょうは、この事業を中心に御質問をさせていただきたいと思います。

 今から約15年前、平成12年度にこの制度は発足いたしました。当時私は38歳でした。絵に描いたような棚田を擁する中山間地、そこに幾らかの田畑を所有している私は、いやも応もなく集落協定のメンバーに入れられました。この制度が何を意味するのか、ろくに理解する間もなく第1期がスタートしたことを今でも思い出します。

 我が集落協定の面積は6万2,000平方メートル、日本の尺度で換算しますと約6町2反、会員は当時35名でした。規模的にはそれほど大きくはありませんが、草刈り作業などは今まで以上に盛んになりました。ただし、田畑の管理を怠ると連帯責任を問われることも頭にありましたので、お互いに監視するとまではいきませんが、妙な緊張感が生じたことも事実であります。

 さて、この事業における協定数の推移ですが、長野県内では平成25年度において1,160協定、参加者は2万8,264人だったと認識しております。平成12年にこの制度が発足して以来、数値的にはどのように変化していったのか。そして今後の見通しはどうなのか。農政部長の御見解をお伺いいたします。

 また、この事業は、ただ単に画期的な制度だったからとか、あるいはお金がもらえるからという理由のみで各集落に受け入れられたわけではないと思います。例えば、中山間地といえば棚田が象徴的ですが、この棚田一つつくるにしても、私たちは自分の親、祖父、曽祖父など、年代の近い先祖から血のにじむような苦労話などを伝え聞いております。ですから、そういった田畑を大切に守ることは当たり前であり、万一草だらけにしたり手放したりしようものなら先祖に顔向けができないという、そういう呪縛のようなものがもともとあったのだろうと思います。

 この直接支払制度は、もし途中で維持管理をしなくなった場合には、過去にさかのぼって交付金の全額返還もあり得ましたし、連帯責任を問われるという強烈なペナルティーもあったわけですが、そんなことを大して恐れもせずに集落協定を結べたのは、こういった先祖への思い、家族のきずな、そして中山間地特有の農村文化や農村コミュニティーがベースにあったからこそだと思うわけであります。

 例えば、草刈り作業一つとってみてもそれは明白だと思います。以前、草がある程度の長さを超えたときに、年配のメンバーから、そろそろ草刈りをやるっつもんじゃねえかいと言われたことがあります。私も、最低限、ワンシーズンに2回以上の作業は行っておりますが、中には四、五回行っている方も珍しくありません。こちらが、忙しいもんでと言いわけをしますと、忙しいのは誰だって同じだと反論されてしまいました。確かにそのとおりだなと思い、慌てて草刈り機を持って畑に飛んでいったこともありました。先祖伝来のとうとい農地を所有している以上、あるいは多少なりとも交付金をいただいている以上、先輩方の言うことは間違ってはおりません。素直に従うのは当たり前だと思います。

 ところが、時代も変わり、農業以外で生計を立てる人々もふえてまいりました。子供たちの動向を見ても、高校を卒業すれば、故郷を、ふるさとを振り返ることもなく、都会に足を向けてしまう若者がほとんどです。また、代がわりが進めば進むほど先人の思いも風化してまいります。私たちも、棚田をつくった本人ではありませんので、自分たちの子供たちにその物語を語るにはインパクトが弱過ぎます。そうなりますと、集落協定を結んでいる5年間に科せられるペナルティーやお互いの注意喚起が、我々の子供たちの世代には精神的にも肉体的にも負担になっていくことは容易に想像できるわけです。最悪の場合は、集落協定の存続も途絶え、荒廃農地がさらにふえていくといった悪循環に陥ることでしょう。

 そのペナルティーについては、最近緩和されたようにも聞いておりますが、協定からの脱落者が出て協定農用地の維持管理ができなくなった場合、交付金の扱いはどのようになるのか。最新の制度事情を農政部長にお伺いいたします。

 また、今年度から第4期対策が始まったところですが、高齢化が進行する状況を踏まえ、今後、事業に取り組む集落を維持し、拡大していくためには、県はどのように取り組んでいかれるのか。農政部長にお伺いをいたします。

 次に、実際の管理作業についてお伺いをいたします。

 中山間農地の大半は急傾斜であります。したがって、草刈り作業においては足腰にも不自然な角度で負担がかかるために、屈強な若者にとっても大変きつい作業であります。2014年12月に、農業・食品産業技術総合研究機構が東京でセミナーを行いました。テーマは「中山間の急傾斜法面の草刈作業を楽にする小型除草ロボットの開発」でありました。そのセミナーでの意見交換会の中で出た結論の一つが、中山間地に耕作放棄地がふえる大きな理由の一つは、草刈り作業が大変だからというものでした。

 このセミナーには、当時、全農中央会会長で元浅間農業協同組合長の茂木守氏も出席しておりましたが、彼も、中山間農地の草刈り作業の過酷さを、自身の経験も交えてとうとうと語っておられます。ただ、そうは言っても、草刈り機や草刈りロボットも進化しているようであります。今、県内において草刈りの省力化の取り組みはどこまで進んでいるのか。農政部長にお伺いをいたします。

 また、トラクターや農業用機械による事故も減少していないようですが、長野県における農作業中の死亡事故件数の推移や事故内容がどのように推移しているのか。農政部長にお伺いいたします。

 さらに、こういった農業事故を減らすために、農業機械士協議会などの皆さんが地元で頑張っておられます。昨年も、東京において、一般社団法人日本農業機械化協会が主催の農作業事故防止中央推進会議が盛大に開催をされました。全国から県を初め関係機関や団体が参加されたようですが、我が県の関係者の本音は、長野県農政部にはもっと積極的に事故防止に取り組んでいただきたいといった思いもあるようでございます。

 長野県機械士協議会も、構成メンバーは高齢化し、活動も衰退の一途をたどっております。さらには、県の機構改革に伴う地方事務所の統合などにより、機械士協議会の事務局もなおざりにされ、衰退に拍車をかけております。また、農作業事故防止のためののぼり旗の購入すらできない状況にあるとも聞いております。この農業機械士協議会の活動の再構築を含め、今後の農作業事故防止の県の取り組みにつきまして、農政部長の見解をお伺いいたします。

  

◎農政部長(北原富裕)

 

 中山間地の活性化への御質問につきまして、順次お答えを申し上げます。

 初めに、中山間地域農業直接支払事業の実施状況と今後の見通しについてですが、この制度は、5年間を協定期間とし、現在、第4期対策となっております。事業発足の平成12年度は1,066協定、6,676ヘクタールの協定面積でした。平成17年度には1,265協定、1万27ヘクタールまで増加しておりますが、その後減少し、平成27年度は1,063協定、9,222ヘクタールとなっております。

 今後、減少傾向が見込まれる中、本年度に拡充されました加算措置の活用などにより、協定面積の維持拡大に努めてまいりたいというふうに思っております。

 次に、脱退者が出た場合の交付金の扱いでございますが、脱退者の農地が適切に管理できなくなった場合は、協定が認定された年度にさかのぼって協定集落全体の交付金を返還することとなります。なお、今年度から、協定者の死亡、高齢、病気等での脱退のほか、家族の看病による脱退も返還が免除されることとなりました。

 次に、協定集落を維持し、拡大するための取り組みについてですが、市町村や集落の中心的な方々に本事業に積極的に取り組んでいただくことがまずもって重要なことから、市町村担当者を対象とした事業推進会議を定期的に開催するとともに、現地に出向きまして、集落の代表者との意見交換を行っているところです。また、本年度から、複数の集落が連携して農地の維持管理を行う場合には、交付金の加算条件が緩和されましたので、この活用を市町村とともに集落に対し働きかけ、高齢化が進む集落においても事業の継続ができるよう取り組んでまいります。

 次に、草刈り作業の省力化への取り組みでございますが、水田畦畔の草刈り作業については、一部地域で自走式の草刈り機などが導入されているものの、依然として肩かけ式の刈り払い機が主流となっております。また、近年、国の研究機関などがラジコン式の自走草刈り機を開発しておりますが、大型で、本県のような傾斜がきつく区画が小さい中山間地の水田には、導入することはなかなか難しい状況でございます。

 このため、県では、本年度から信州大学や県内企業と連携し、小型で遠隔操作が可能な草刈り機の開発に着手したところです。現在、試作機での走行試験を開始したところでありまして、平成30年度の完成を目指し、鋭意取り組んでいるところでございます。

 次に、農作業中の死亡事故の推移等についてですが、過去10年間の平均は12件となっておりまして、近年では、平成26年が11件、27年が9件となっております。事故の内容としては、乗用トラクターによる事故が35%、次いで歩行型トラクターによる事故が23%と、トラクターによる死亡事故が約半数を占め、その他、スピードスプレーヤなどによる事故となっております。また、主な事故原因は運転操作の誤りであり、65歳以上の事故が8割と、高齢者の事故が非常に多くなっているのが特徴でございます。

 次に、農作業事故防止の取り組みについてですが、県は、農繁期となる田植えの春と収穫期の秋の2回、農作業安全運動月間を設定し、農業改良普及センターや農業機械士協議会、市町村が連携しまして、啓発のための公用車によるアナウンスやチラシの配布、新聞、雑誌への記事の掲載などを実施しております。

 一方、農業機械の高度化、また農業者の高齢化など農作業環境が大きく変わる中で、農作業事故防止への取り組みの見直しが必要であるというふうに認識しておりまして、今後、農業機械士の方々の御意見も伺い、効果的な手法を検討してまいりたいというふうに考えております。

 なお、農業機械士協議会のあり方につきましては、各地域の状況をお聞きする中で、今後検討してまいりたいというふうに考えております。

 以上でございます。

  

◆依田明善

 

 中山間地農業の振興を妨げる理由として、急傾斜、非効率、危険性などを上げることができます。しかも、その改善につきましては、物理的にも財政的にも大変難しいわけでありますけれども、県としても最大限の努力を賜るようお願いを申し上げたいと思います。

 さて、中山間地域農業直接支払制度においては、ぜひ継続してほしいという市町村からの要望が9割以上だと聞いております。本県においても、食と農業農村振興計画の中で、本制度に期待するところは大きいわけです。けれども、高齢化が進み、脱退者はふえるばかり。このままでは、事業どころか、集落そのものが消滅をしてしまいます。

 集落協定の役員をやってみて感じることは、おなじみの面々、おなじみの意見などによる組織内のマンネリ化です。最初のころは、交付金の加算に期待し、付加価値の高い事業を模索したこともありましたが、結局見送って現在に至っております。また、きのうまで畑の上下左右で草刈り作業をしていた協定仲間が、老齢などのために1人、2人と亡くなっていく、これはこれで一抹の寂しさがあります。しかし、問題は後の管理です。普通に考えれば、後継者たる子供たちに引き継がれるべきですが、その彼らが地元にいないとなれば、結局役員が草刈りなどの管理をせざるを得なくなります。多くの皆さんが役員を逃げたくなる一つの原因はここにあります。

 そこで、この事業を、従来の運営方法にとらわれずに大胆な発想で見直していくことが重要ではないかというふうに思います。例えば、全国各地の大学、自治体、企業などに希望者を募り、協定締結の当事者になっていただくというのはいかがでしょうか。確かに、大学生やNPO法人などと連携して活動している集落もあります。また、棚田オーナー制度とか体験農園などもおもしろいと思います。ただ、もっと踏み込んだ形ができないものでしょうか。

 地域を活性化させる原動力となるのは、よそ者、若者、変わり者などと言われております。もともと集落というのは、何十年間、何百年間の中で、縁あってよそから集まってきた人々によって次第に形成されてきたケースが多いと思います。だとすれば、集落協定の運営者は、やる気や戦力のある人々に任せるべきだと思います。地元民と外部の人々が気持ちを一つにして棚田や用水路等の管理を行い、手分けをして農作物をつくり、斬新なアイデアや事業計画のもと、それぞれの人脈や販路を使って農作物を販売して利益を得る。中山間地の農地は、農地集積が物理的にも困難ですから、相場に左右されない販売戦略は極めて大切なことだと思います。こうして、5年間というタイムリミットの中で集中的にそれらを実行し、これらのビジネスモデルが定着すれば、その中山間地は末永く有効活用されていくのではないでしょうか。

 もしこういったことが可能であるならば、学生たちにとってはまさに生きた教材を与えられることになり、地方研究に取り組む大学などにとっても充実したカリキュラムをうたうことができます。しかも、将来新規就農を考える若者たちにとっては、人脈面、技術面などにおいても得るものは大きいと思います。また、大学、自治体、企業などが集落協定に参加することにより、少なくても5年間は多くの人々がその中山間地域に通うわけです。中には、棚田や農作物の管理、収穫などで何日も宿泊しなければならない場面も出てくるでしょう。時には家族や友人などを連れてくることもあるかもしれません。そうなれば、地元の宿泊施設も利用されるでしょうし、地元の空き家にも出番があるはずです。地元行政などがちょっと手を加えれば、格安のクラインガルデンにもなりますし、地元建設職人の仕事もふえます。こうして地元の皆さんとの親戚のようなつき合いが始まれば、その地域に対する深い愛情も湧いてくることでしょう。

 移住・交流というのは、コアな関係から始まるのが最も自然であり、長持ちもします。また、よそ者と言われる皆さんが知恵を絞り、汗水流して頑張っている姿を見れば、都会に憧れ、田舎を出ていった若者なども感化され、自分のふるさとに魅力を見出してくれるかもしれません。これによって、全国規模でUターンブームを醸成することも可能だと思います。

 このように、外部の血を入れていくことにはさまざまな効果が期待されると思います。県としても、国に事業の継続を求める際には、こういった提案も行ってはいかがでしょうか。中山間地域農業直接支払事業費12億円余の費用対効果が何倍にもなるように、このような発想を事業の中に取り込むことが必要だと考えますが、農政部長の御見解をお伺いいたします。

        

◎農政部長(北原富裕)

 

 中山間地域農業直接支払事業に新たな発想で取り組むことについてのお尋ねでございますが、上田市の稲倉棚田を持ちます岩清水地区では、県外の高校生の田植え体験の受け入れや棚田オーナー制度に取り組むなど、外部の方々と連携し、事業を進めている事例がございます。県内にもほかにも多数ございますが、議員御提案の外部の団体などが事業の取り組み主体となることは、制度上、現在は認められておりません。しかしながら、農業者以外の方々、また外部の方々の力もかりて農地を適正に維持管理し、地域の活性化を図ることは、農業、農村の維持、また地方創生を進める上で重要な視点と認識しておりますので、県といたしましても研究し、事業の見直しや拡充について国に要請してまいりたいというふうに考えております。

 以上でございます。

 

◆依田明善

 

中山間地は、もともと、多くの日本人が農ある暮らしを実践してきた場所です。この先人の残してくれた田畑や山林をどう現代風にアレンジして活用するのか、それによって地方創生の行く末は決まっていくことでしょう。金や物の豊かさだけではなく、心の豊かさも実感できなければ、よい世の中とは言えません。中山間地は、その全てを実現してくれるフィールドであります。ぜひとも中山間地の活用方法をさらに充実していただきますことを心よりお願い申し上げまして、一切の質問を終わります。御清聴、ありがとうございました。